【クレムリン経済学】経営権譲らず市場は懐疑的 露、主要国営企業の民営化検討

2016.2.22 05:00

 ロシア政府が主要国営企業の民営化を検討している。原油価格下落と欧米の経済制裁で財政が逼迫(ひっぱく)する中、株式売却で歳入を補填(ほてん)することが狙いだ。ただ政権は企業の経営権は譲らず、外資の参加も厳しく制限する構え。最終的な売却先は政権に近いオリガルヒ(新興寡占資本家)になるとの見方も根強く、彼らが廉価に株を取得するだけとの冷ややかな指摘も出ている。

 ◆財政悪化で方針転換

 プーチン大統領は1日、クレムリンで国営企業の民営化計画に関する会議を開催した。露紙ベドモスチによると、会議には国営石油企業「ロスネフチ」や同業の「バシネフチ」「ロシア鉄道」「VTB銀行」、航空最大手の「アエロフロート」、海運の「ソブコンフロート」、ダイヤモンド独占採掘企業「アルロサ」の7社幹部が呼ばれた。露政府はこれらの企業の株式売却に向け、検討に入ったとみられる。

 政権による主要産業へのコントロールを重視するプーチン氏が2012年に大統領に再任されて以降、ロシアでは国営企業の民営化はほとんど行われなかった。しかし財政悪化を受けて、政権は方針の転換に動いたとみられている。ロイター通信によると、シルアノフ財務相は売却を通じ、1兆ルーブル(約1兆5000億円)の調達を目指す考えを明らかにしている。

 ◆外資参入にハードル

 ただ、プーチン大統領は民営化に向け、国家によるコントロールの維持や売却価格の厳格な管理、さらに投資家がロシア領内に居住することなど、さまざまな条件を要求した。ロシア当局は、外資による参入も歓迎するとの考えを示しているが、国家の戦略上重要な企業の株式が外資にわたる事態を避けるため、高いハードルを課したのが実態だ。

 一方で、ロシアが欧米の経済制裁下にある中、国営企業の株式取得にどれだけ外国企業や海外の投資家が関心を持つかは未知数だ。そのため最終的な株式の購入者は、政権に忠実なロシア国内のオリガルヒに落ち着くとの見方が強い。

 原油価格の下落やロシア経済の苦境を映し、各社の株価は軒並み低い水準にとどまっている。ロスネフチの場合、ドル建てでは過去3年で約3分の1に落ち込んだ。そのため現時点で株式売却に踏み切れば、結果的に政権に近い有力者が、極めて安価に株式を獲得する可能性がある。

 ロシアは1990年代の混乱期、一部のオリガルヒがただ同然の価格で国内の主要産業を取得した結果、極端な貧富の差が生まれた。そのため、多くの国民は国営企業の民営化に対しては強い嫌悪感を抱いている。

 プーチン大統領は、国営企業幹部との会合でも「株式を格安で売ってはならない」と強調したが、これは民営化が政権に対する国民の不満につながることを警戒しているためともみられている。市場には依然、今回の民営化がオリガルヒによる国営企業の株式取得のために準備されたものとの見方がくすぶっている。ロシア経済が急速に悪化する中、優良資産である国営企業は極めて魅力が高いためだ。

 90年代の民営化では、売却が発表された翌日には入札が締め切られ、結果的に「1社だけが応札した」とするなど、不透明な株式売却が横行した。日系企業関係者は「売却方法がどのようなものになるかが、健全な民営化が行われたかを見分けるポイントとなる」と指摘している。(モスクワ 黒川信雄)

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