中国からまさかの「お役ご免」 AIIB要職人事でゴタゴタに揺れる韓国

2016.7.31 07:20

 中国主導の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の要職人事をめぐるゴタゴタに韓国が揺れている。AIIB副総裁に就いた洪起沢(ホン・ギテク)氏が韓国産業銀行(KDB)会長時代に関わった造船会社で不正会計が発覚し、辞任を余儀なくされたのだ。中国になびいて36億ドル(約3800億円)もの巨費をAIIBに投じたにもかかわらず、重要ポストをなくした韓国では、責任を追及する声があがっているほか、中国政府に対する不信感も強まっている。AIIBは昨年末の発足から1年もたたずして、組織の歯車がぎくしゃくとしてきた。

韓国の逸材、4カ月で失墜

 渦中にある洪氏とはどんな人物なのか。

 韓国メディアなどによると、洪氏は米スタンフォード大学で経済学博士を取得し、韓国の中央(チュンアン)大学校の教授に就いていた。2013年からは韓国政府系の韓国産業銀行(KDB)の会長を務めるなど、政府の信頼は厚く、朴槿恵政権の経済ブレーンともいわれる。

 韓国政府のお墨付きもあって、今年2月に最高リスク管理責任者(CRO)として、AIIB副総裁に選任。5つある副総裁ポストのうち、1つを韓国が獲得したことに、世論は沸き立っていた。

 しかし、そのわずか4カ月後、洪氏は失墜の憂き目にあう…。

 韓国「ゾンビ企業」の放漫経営が仇

 伏線は、経営不振の大宇造船をめぐる不正会計の発覚だ。洪氏が会長に就いていたKDBは、同社の大株主だった。

 韓国監査院は6月、2013、14年に大宇造船が計1兆5千億ウォン(1400億円)の利益を過大計上していたと発表。KDBは財務チェックを怠っていたと厳しく指摘した。

 大宇造船は韓国の単一企業としては最高の5兆ウォン規模の赤字を計上。業績が悪かったのに役員に多額の報酬を支払うなど、ずさんな経営が明らかになっている。公的資金を原資にKDBなどが4兆2千億ウォン規模の支援を決めたことに批判が噴出している。

 ここまでなら、あくまでゾンビ企業をめぐる監督責任問題に過ぎなかった。

 それがAIIBの副総裁人事へと飛び火する事態となったため、不満がいっきに高まった。

 「去就、決めよ」事実上の辞職勧告

 韓国・中央日報(日本語電子版)によると、洪氏は中国・北京で6月25日に開かれた初のAIIBの年次総会の直前に「休職」届を提出。総会にも姿を現さなかったという。

 当初は、大宇造船の粉飾決算にかかわる批判を受けた自発的な休職とみられていた。

 だが実態は、中国側の意をくんだAIIBからの事実上の辞職勧告によるクビ切りだったことが明らかになり、メンツをつぶされた形の韓国では「誰のせいだ」とばかりに責任論がふき出している。

 朝鮮日報(日本語電子版)は社説で、国会での真相究明を求めている。

 同紙によると、初総会を前にAIIBから「1週間以内に去就を決めるように」と洪氏が要求を受けていたことを政府は知っていたという。それを公表せずにAIIBと協議し、「休職」の扱いで妥協したと報じた。

 そもそも金融の実務経験のない洪氏をKDB会長に起用したうえ、AIIBに送り出したことについても「納得しがたいことだ」と疑問を呈した。

 中国の難癖、裏切り…

 副総裁ポストを失うことに大きく落胆するのは、これまでのAIIBとの関係を振り替えると、当然のことといえる。

 韓国は、AIIBに距離を置いた日米を袖にしてまで、中国の呼びかけに応じて参加。出資比率は中国、インド、ロシア、ドイツに次ぐ5位に食い込んだ。

 副総裁ポストは外交努力に見合う「戦利品」だったが、いとも簡単に「剥奪」されてしまった現実は、中国との蜜月関係のもろさを露呈した。

 韓国経済新聞(日本語電子版)は社説で「中国が、ささいな難癖で副総裁ポストをなくしたのは、裏切りとも映りかねない」と指摘。中央日報(同)は副総裁ポストを取り返すため「AIIBと中国に韓国の正当な権利を主張しなければならない」と訴えた。

 鳩山氏にも触手のAIIB

 AIIBがなぜ、洪氏を追いやったのか。それはいまだに判然としない。

 大宇造船の不正会計問題がくすぶる中、洪氏は国際金融機関の首脳に適さないとの「大義名分」は成り立つが、米軍の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備をめぐる関係悪化が背景にあったとの見方もある。

 AIIBがホームページ上で洪氏の後釜を正式公募した7月8日は、米韓両国が在韓米軍へのTHAAD配備を発表した日でもあったからだ。

 AIIBは、洪氏が担っていたリスク責任者(CRO)ポストを局長級に格下げして公募しており、韓国人副総裁の復活はまずないとみられる。

 一方、AIIBとの関係では、日本政府はいまも一線を画している。しかし、水面下では、AIIB総裁の金立群氏が鳩山由紀夫元首相に「国際諮問委員会」委員への就任を打診。鳩山氏は、受け入れに前向きな考えを表明した。

 外交問題にも発展する人事だけに、鳩山氏に秋波をおくる中国の思惑に関心が集まっている。 

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