「悪夢」乗り越え走り出すか 日本支援の米高速鉄道 トランプ政権に思惑交錯

2017.1.9 07:00

 まもなく誕生するトランプ米政権のもと、日本の高速鉄道輸出が分岐点を迎えた。トランプ氏はインフラ整備自体には前向きで、JR東海が支援するテキサス計画では追い風が期待できそう。一方で、公共事業となる東海岸やカリフォルニアの計画は財政拡大を嫌がる共和党がブレーキをかけるとの指摘もある。果たして政権交代は吉か凶か。

 「『フロリダの悪夢』はもうごめんだ。トランプ氏のキャッチフレーズ『偉大な米国』に欠かせないのがインフラ整備。高速鉄道はその要になるはず」

 国土交通省の関係者はそう強調する。「フロリダの悪夢」とは、フロリダ州で進められていた高速鉄道計画。110億ドル強を見込んだ総事業費など注目度が高く、JR東海など新幹線を擁する日本の企業連合が受注を狙った。しかし、2011年に共和党系のスコット知事が「計画は納税者にコストが高くつき過ぎるおそれがある」として連邦予算の受け入れを拒み、頓挫した。

 あれから時は流れ、奈落の底に突き落とされた日本企業が元気だ。筆頭がフロリダで最大の苦汁をなめたJR東海。昨年10月、同社が支援するテキサス州の高速鉄道計画を後押しするため、ダラスに設立した現地法人「ハイスピードレイルウェイ テクノロジー コンサルティング(HTeC)」が業務を始めた。

 同州の高速鉄道はダラス~ヒューストン間(約)を結ぶもので日本の新幹線方式を採用。22年の開業を目指している。ただ、JR東海は事業を丸抱えするリスクは回避し、開発主体の地元企業を技術面などで支援し、出資する場合も小額にとどめる見通しだ。

 HTeCが事業を始めた翌月、トランプ氏が大統領に当選した。トランプ氏は公約で、今後10年で1超ドルのインフラ投資を掲げた。道路や橋梁とともに、鉄道など交通インフラもその中核となるとみられる。テキサス計画は公費に頼らないとはいえ、トランプ氏が米国の指導者として積極的なインフラ整備を掲げたことは、何よりの支援材料となるといえる。

 同社は東海岸の大動脈、ワシントン~ニューヨークを結ぶ「北東回廊」計画にも参画する見通し。同区間はすでに全米唯一の高速鉄道「アセラ」が走るが、超伝導リニアを導入しようという構想で、20年代の開業を目指す。ワシントンは言うまでもなくトランプ氏が執務するホワイトハウスをはじめ政治の中枢であり、ニューヨークはトランプ氏のお膝元としてビジネスの中心。「トランプ政権では往来が一段と活発になる」(商社関係者)とみられている。

 さらに、カリフォルニアでも、JR東日本など日本企業が支援する高速鉄道計画が進んでいる。

 これまで米国では、衝突事故などを想定して、非常に頑丈な車体設計が必要とされてきたが、トランプ政権のもとで規制緩和が進むとの期待ももたれている。

 だが、不安もある、最大のリスクは実はトランプ政権そのものに根ざす。新大統領の後ろ盾となる共和党は、伝統的に「小さな政府」を掲げ、財政支出の拡大を嫌う。トランプ氏の巨額のインフラ支出に歯止めを掛けようとすることは十分考えられる。北東回廊とカリフォルニア計画はともに公共予算で基本まかなうだけに、共和党の理解がなければ円滑に進まない。

 実はオバマ現政権も、インフラ整備と地球温暖化防止の観点から、高速鉄道計画に熱心だった。だが、先のフロリダの事例をはじめ、全米の共和党系州知事の抵抗にあい、構想は遅々として進まなかった。

 一方、民間主導のテキサス計画には政府の財布の縛りはないが、推計120億ドルとされる事業費を民間でまかなわないといけない。今後の米景気の動向もにらみ、どう資金を調達していくかが難題になってくる。HTeCの幹部も「ようやく山の麓までたどり着いた」と口にする。(柿内公輔)

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