アパート建設急増、「バブル前夜」警戒 大家が経営に行き詰まる「危険水域」

2017.5.26 06:11

 アパート、マンションなど貸家の建設が急増している。土地を資産に持つ個人の相続税対策として広がり、2016年の着工戸数は前年比10.5%伸びた。人口減少で今後は入居者数がしぼむことも予想されるが、貸出先の確保で地方銀行の融資も過熱。不動産市場は「バブル前夜」の様相を呈し、金融庁や日銀は警戒感を強めている。

 危険水域

 国土交通省によると、16年に着工した貸家は約41万8500戸。08年のリーマン・ショック後に減速したが、この5年間はいずれも前年に比べてプラスで推移している。

 背景にあるのは15年の相続税増税だ。金融機関から借り入れをしてでもアパートなどを建てる方が相続税を抑えられるとして、土地持ちの富裕層が節税狙いの不動産投資に注目した。

 日銀の金融緩和策で世の中に出回るお金の量は増えたものの、金融機関は貸出金利の低下で収益が悪化している。そのため、地銀を中心に、万一の場合でも土地を担保に取れる不動産融資に傾斜。東京や大阪では近隣の地銀が「採算割れするレベル」(大手行担当者)の低金利で顧客獲得の攻勢をかけている。

 日銀によると、アパートローンを含む銀行の不動産向け新規融資は16年が12兆2806億円と前年から15.2%増加した。着工の急増で地方では借りる人がいないまま空き家になるとの懸念もあり、不動産大手の関係者は「大家が経営に行き詰まる危険水域に入った」と話す。

 最後に泣くのは

 水戸市近郊にアパート2棟を所有する60代の男性は、自己破産寸前の状況でローン返済を続けている。元々は父親が相続税対策の一環として農地を転換し建てた。大手の建築請負業者が借り上げ、家賃を30年間保証するとして建設を勧められた。しかし、入居者の減少で先に建てた1棟は相続後に契約を打ち切られ、残る1棟もこの先どうなるか分からない。

 借金は計1億5000万円を超える。最近は別の業者と地銀に新たなアパート建設を持ち掛けられた。「いずれバブルがはじけるのは目に見えているのに、業者や銀行は本当のことを言わない」と悔しさをにじませる。

 不動産業界に詳しい坂尾陽弁護士は「業者から契約を解除すると一方的に告げられ、大家が家賃の減額を強いられるケースもある」と警鐘を鳴らす。不動産調査会社タス(東京)の藤井和之氏は「最後に泣くのは銀行でも業者でもなく大家だ」と指摘する。

 金融庁も地銀に対し目を光らせている。「将来の空室率や家賃の変動リスクを十分に説明せず、安易に貸し付けている」(幹部)との疑念があるためだ。日銀も17年度の金融機関への考査(立ち入り調査)で、不動産向け融資を重点的に調べる方針だ。「一部の地銀は不動産への融資割合が高く、審査も甘くなっている」(幹部)と問題視している。

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