知財権侵害 米中対立、日本政府は対応に苦慮 貿易摩擦の激化懸念

2017.8.16 06:00

 米国が通商法301条に基づく調査を始めた中国の知的財産権侵害は、同様の被害を受ける日本にも切実な問題だ。米国が改善に向けて圧力を強めれば日本企業の事業環境にも好影響が出る可能性がある。ただ、保護主義的な手法で制裁措置に踏み切れば貿易摩擦が激化し、世界経済の不安要因になるのは避けられず、政府は対応に苦慮しそうだ。

 特許庁が3月に公表した「模倣被害調査報告書」によると、2015年度に日本企業の特許権や商標権などが侵害された事例のうち半数以上が中国絡みだった。製造技術の盗用や海賊版など、手口は多岐にわたる。

 また、先進工業国入りを目指す中国は、バイオ医療や新エネルギー自動車などの先端産業を「10大産業」と定め育成する方針を打ち出しており、進出した外資系企業に対する技術移転の強要も収まる気配がない。こうした中国の商習慣や法制度は現行の世界貿易機関(WTO)体制では改善が難しい。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉で、日本が中国に知的財産の保護を含むレベルの高い貿易ルール受け入れを求める背景は「不公正な行為から労働者や技術、産業を守る」とするトランプ氏の主張と一部重なる。

 とはいえ、貿易赤字の削減を目指し知的財産だけでなく鉄鋼製品の輸入抑制などでも一方的な制裁措置をちらつかせて相手国を“恫喝(どうかつ)”してきたトランプ氏の手法は、日本や欧州など先進国も巻き込んだ貿易紛争に発展する恐れがある。

 加えて、今回の対中調査は北朝鮮核問題で中国の協力を引き出したい思惑が強く、本当に制裁が実施されるかは不透明だ。世耕弘成経済産業相は15日の記者会見で「推移をしっかり見守りたい」と述べるにとどめ、世界経済への影響などについては論評を避けた。(田辺裕晶)

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