【ローカリゼーションマップ】食品ロスを許さない文化を育むには ミラノのボランティアが教えてくれること

2018.4.22 06:00

【安西洋之のローカリゼーションマップ】

 20数年間のミラノ市内の生活で、大きく変わったと感じる現象は少なくない。その一つに、週末に郊外の大型スーパーマーケットで1週間分の食品を購入する、というパターンが圧倒的な主流ではなくなってきたことがある。

 市内の小・中型スーパーで2日に一度、あるいは毎日買う人も多くなっている。その証として店内で見るショッピングカートも小さなサイズを使う人が以前より増えている。

 これには色々な理由が考えられるだろう。家族のスケジュールが外食などで急に変更されることが多くなり、1週間分の予定が組みにくくなった。まとめ買いは捨てる食品を生む原因となり、経済合理性に反する。それだけではない。

 「食糧・環境問題にとって食品ロスは許されることではない、との意識が高まってきたこともあると思います。過去、北欧・ドイツに比較すると南欧は環境意識が低いと言われていましたが、ミラノでは大きな変化が見られます」

 こう話すのは、ヴィルジニア・クラヴェロだ。彼女は農産品のサプライチェーンをテーマとする研究者としての仕事と並行し、オープンマーケットでの食品ロスを有効活用するボランティア活動(RECUP)を仲間と行っている。

 市内の10数カ所にあるオープンマーケットで売れ残った生鮮食品をマーケット終了近くに各スタンドから引き取り、同じ道に設置した自分たちの簡易的な場で配布する活動をしている。もちろん売るわけではない。

 生鮮食品のおよそ7-8割は果物で、残りが野菜・魚・肉である。

 スーパーマーケットは企業として食品ロス対策が定まっているので、ボランティア団体が入り込む余地はあまりない。それでヴィルジニア達は、個々の屋台主が判断できるオープンマーケットに活動の対象を絞っている。

 「地域にも傾向があります。市内の裕福な人たちが多いゾーンには、売れ残りを必要とする人たちがあまり住んでいません。やや郊外の経済的困窮者を対象にした公共住宅施設の周辺のオープンマーケットに需要が高いです」

 通常、地域のゴミ収集や清掃を請け負う企業がオープンマーケット終了後に膨大なゴミの片づけをする。屋台の業者は商品の入っていたケースなどを各自で持ち帰らず、すべて道路に置いていくのだ。そのなかで生鮮食品の売れ残りは、生ごみとして区別して置かれる。

 ボランティア団体は、営業終了間際に売れ残り品を業者から直接引き取るか、生ごみとして区分けされたものを引き取る。そこでゴミ処理の企業とは協力関係にある。また、経常的にこの活動をするうちに、近所の住民たちも自然にボランティア活動を助けてくれるようになった。

 現在、彼女たちはオープンマーケットの活動拠点を増やす一方、ケータリングサービスの食べ残しを困った人たちに提供することも始めている。

 飲食店などの食べ残しはどうなのだろうか?

 「数年前にやっと、飲食店は客が持ち帰りを要望した際、容器を提供しないといけないとの法律ができました。いわゆるドギーバッグですね。フランスではずっと前からこういう法律がありましたが、イタリアでは遅かったです。ただ、問題はこの法律が一般の人に周知させる広報活動がまったく行われていないことです」

 ドギーバッグという言葉も意味も知っている。しかし、食べ残しを持ち帰る習慣がない。レストランで容器に入れてくれ、と人前で要望することを躊躇する、つまりは恥ずかしがる人が多い。

 「なに、食べ残しを持って帰るわけ?」と、隣のテーブルの人たちが放つ怪訝な視線に腰が引けるのである。

 ドギーバッグを持って店を出ることは普通の行動である、と思われる文化を作っていかないといけない。

ボランティア団体のソーシャルメディアのページを見ると、オープンマーケットでの売れ残りを仲間や地元の人たちと集める作業も楽しいし、売れ残りの果物も美味しい、という雰囲気がよく伝わってくる。

 ドギーバッグの習慣の普及も短期間ではできないだろうが、あまり悲観するほどの期間を要しないかもしれない。こうした習慣・文化の変化のスピードも確実に速くなっている。(安西洋之)

【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)

上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『デザインの次に来るもの』『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)とフェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih

ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。

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