債務で主導権を奪う…中国の呪縛、はまったスリランカ、モルディブにも迫る

2018.6.23 16:10

 多額の資金を融資し、首を回らなくして主導権を奪う-そんな中国による「債務外交」のワナが各地で露見し始めた。中国に傾斜するインド洋の島嶼(とうしょ)国、モルディブでは首都と人工島を結ぶ橋梁など小さな国に見合わぬ大規模プロジェクトが進行。2020年には中国への借金返済が国家歳入の半分にもなると指摘される。モルディブの未来を暗示するようにスリランカは多額の対中債務を抱え、中国の呪縛から逃れられなくなっている。

 25億ドル超の融資

 「中国は借金のわなをつくり、相手を縛り付ける道具として使っている」

 モルディブの野党指導者で亡命中のナシード元大統領が6月はじめ、滞在しているスリランカでロイター通信に答えた。

 ナシード氏によると、中国への借金返済は2020年に7億5000万ドル(約825億円)にのぼる。人口約40万人の小国では歳入の半分に匹敵。また中国輸出入銀行がインフラ建設用に行った融資はゆうに25億ドル以上になるという。

 インド洋に点在する1200もの島々からなるモルディブでは、中国が融資する大規模プロジェクトが進行中だ。9月ごろに完成見込みの「中国モルディブ友好橋」もそのひとつ。約1.8平方キロの小さな島に10万人が密集する首都の過密解消を狙い、近くに造成した人工島とを延長約7キロ、6車線の道路でつなぐ。

 中国紙、環球時報によると、習近平国家主席が14年にモルディブを公式訪問した際、ヤミーン大統領が名称を提案した。

 「一帯一路」に組む込む

 伝統的にインドとの関係が強かったモルディブだが、ヤミーン氏が13年に大統領に就任してから中国との関係が急速に深まった。中国は現代版シルクロード構想「一帯一路」で海のシルクロードにモルディブを組み込み、空港拡張などさまざまなインフラ整備を支援。中国人観光客が押し寄せている。

 ナシード氏は今年1月の記者会見で、少なくとも16の島を中国の関係者が賃借して港湾開発やインフラ整備が行われていると指摘。「中国が土地を収奪し、主権を傷つけている」と批判していた。

 ヤミーン氏は中国傾斜を強めると同時に、反体制派を弾圧した。内政に関知しない中国は都合がよく、昨年12月には北京を訪問して自由貿易協定(FTA)に署名した。中国から資金を得て大規模開発を進めてきたモルディブだが、たとえ政権が変わっても大きな禍根を残す危険がある。

 スリランカでは2015年までの10年間にわたったラジャパクサ政権で、過度に中国に傾斜した弊害が顕著になってきた。中国の資金でインフラ整備を進めたが、多額の借金と金利がのしかかってきたからだ。

 シンガポールのニュース専門テレビ、チャンネル・ニュース・アジアによるとサマラウィーラ財務相は5月、今年の元利の支払いは28億4000万ドルにのぼると述べた。来年はさらに悪化し、42億8000万ドルにふくれあがるという。

 15年に大統領に就任したシリセナ氏は、インドや日本なども含めたバランス外交を掲げるが、前政権の負債による中国の呪縛から逃れられない状況だ。

 港湾に加え空港も危険信号

 ラジャパクサ氏は自らの地元である南部ハンバントタへの露骨な利益誘導を行い、10年に建設した大規模な港湾は中国からの融資で13億ドルの建設費の大半をまかなった。しかし運用は低調でシリセナ政権は昨年、債務返済のめどが立たないとして、11億ドルで99年間貸し出す契約を中国国営企業と結んだ。借金のカタに管理権を奪われた格好だ。

 さらに、中国輸出入銀行の融資を受けて約2億6000万ドルで建設されたラジャパクサ国際空港も、同様の運命をたどる可能性が出ている。年間100万人を受け入れる同国第二の国際空港として13年にハンバントタに開港したが、利用が全く振るわない。

 政権交代直後の15年1月には、国営スリランカ航空が採算が取れないとして路線の廃止を表明。地元メディアのエコノミー・ネクストは6月はじめ、唯一残っていたドバイの格安航空会社が突如運行を停止して同空港の定期便はゼロになったとして、「スリランカは第二の国際空港に1便もないという世界記録を打ち立てた」と皮肉った。

 港湾に加えて空港の管理権も中国が得るようなことになれば、隣国インドを刺激する安全保障上の問題に発展する恐れもある。

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