【ユーロ経済学】EU“両面作戦”見えぬ展望 米中貿易戦争「得るものなし」

2018.7.16 06:05

 米国と中国が貿易戦争に突入する中、欧州連合(EU)が双方に対する両面作戦を展開している。米国とは保護主義的動きに対決しつつ、対話解決も模索する一方、対米連携を求める中国とは一線を画す。ルールに基づく自由な多国間貿易を守る決意だが、2大貿易国のはざまであらがいきれるのか。展望はまだ見えていない。

 保護主義対抗は共通

 トランプ米政権が鉄鋼とアルミニウムの輸入制限の対象をEUなどにも拡大した6月1日、EUのマルムストローム欧州委員(通商担当)は記者会見で明確にEUの姿勢を示した。

 「世界のプレーヤーがルールを守らねば、多国間システムが崩れかねない。われわれはどこにも肩入れしない」。米国の世界貿易機関(WTO)提訴を表明したマルムストローム氏はこう語り、返す刀で中国を知的財産権の侵害で提訴したことも明らかにした。

 EUも中国もトランプ政権の保護主義に苦しめられる点では同じ立場。だが、政府補助を背景とした中国の鉄鋼過剰生産、外資規制を通じた中国の外国企業に対する技術移転の強要は、かねて米欧が共通に抱える問題だ。米国の行動の背景にも、こうした中国への不満がある。EU関係者は「米国と異なるのは唯一、対処の仕方」と語る。

 EUは16日に中国と首脳会談を開催する予定だ。欧州メディアによると、双方は保護主義への反対やWTO改革での協力を約束する方向だが、中国が準備段階でWTOでの対米共同歩調などEUと強い連携を打ち出すことを望む一方、EUは慎重姿勢という。共同声明はまとまらない可能性があるとの見方もある。

 自動車関税を交渉?

 一方、米国にはどう対処するのか。EUは鉄鋼とアルミニウムの輸入制限に対し、米製品28億ユーロ(約3600億円)相当に報復関税を発動した。次の焦点は自動車の輸出制限。EU欧州委員会は発動時の報復関税の検討に入り、英紙フィナンシャル・タイムズは対象候補が米国製品180億ユーロ相当に上ると伝える。

 ただ、自動車の輸出規模は鉄鋼・アルミニウムを大きく上回る。影響もはるかに大きく、このため回避を模索する動きも出ている。一つの案に浮上しているのが、米欧だけでなく、日本など自動車の主要輸出国を集めて自動車関税を引き下げる協定を交渉する方策だ。

 EUはユンケル欧州委員長が月内に訪米し、トランプ氏とのトップ会談で打開を図る考え。米側の不満の背景にあるのは乗用車に対する関税の格差で、米側も駐ドイツ大使が独自動車大手の幹部に、米国からの輸入車への関税を撤廃すれば、米国も関税をゼロにすると提案したと伝えられた。メルケル独首相も関税交渉に前向きだ。

 対中輸出で不利に

 だが、これが打開に至るかは予断できない。EUでは鉄鋼の輸入制限発動前にも、自動車など工業製品の関税を米国と交渉する案が出たが、「銃を頭に突き付けられた」状態ではできないとし、輸入制限の正式な適用除外を条件に求めた。方針の変更にはEU内の調整が必要で、自動車だけを対象とすれば、一部の国の利益のみを配慮しているとの不満が出る恐れもある。

 仮に自動車への輸出制限が回避されても、米中の貿易戦争が続く限りEUは安心できない。中国は米国への報復関税の対象に自動車も含めた。BMWやダイムラーなど独自動車大手は米国で生産した自動車を中国に輸出しており、打撃を受ける。米国と中国はそれぞれEUの第1位と第2位の輸出先。摩擦激化で両国の景気が冷え込めば、EUの輸出に影響も出る。

 一方、中国が米国と何らかの合意に到達し、対米貿易黒字の削減のため、米国製品の輸入増加に取り組めば、EUの対中輸出にとっては不利となりかねない。「欧州が得られるものは何もない」。欧州の経済アナリストはそんな分析も示している。(ベルリン 宮下日出男)

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