苦境にあえぐ「三セク」 10年で1400社が淘汰、自治体の巨大リスクに

2018.10.22 06:45

 全国の「第三セクター等」がこの10年で約1400社減少した。政府の改革で徐々に経営改善は進んでいるものの、処理を先送りされた第三セクター等は地方自治体にとって大きな財政リスクになっている。(東京商工リサーチ特別レポート)。

 総務省は「第三セクター等」として次の法人を定義している。(1)法律等の規定に基づき設立された一般社団法人、一般財団法人および特例民法法人のうち、地方公共団体が出資している法人(2)株式会社、合名会社、合資会社、合同会社 および特例有限会社のうち、地方公共団体が出資している法人(3)地方住宅供給公社、地方道路公社、土地開発公社(4)地方独立行政法人。

 総務省が2018年2月に公表した「第三セクター等の出資・経営等の状況調査」によると、全国の「第三セクター等」の数は7503法人(2016年度)で、この10年で1396社(15.7%)減少した。政府の抜本的改革の推進に伴い、徐々に経営改善が進んでいるが、債務超過の法人はまだ245法人ある。

◆政府は不振の三セクの整理に乗り出した

 2016年度に地方自治体から第三セクター等に交付された補助金の総額は5686億円にのぼり、自治体からの借入や損失補償・債務保証、出資金の総額は12兆2693億円に達している。

 自立した経営が難しくても処理を先送りされた第三セクター等は、地方自治体にとって大きな財政リスクになっており、第三セクター等を巡る課題は残されたままになっている。

 第三セクター等は、地方振興の旗振り役を担って各地で相次いで設立されたが、景気低迷の長期化などを背景に当初の事業計画が軌道に乗らず、経営不振から抜け出せない第三セクター等が続出した。

 政府は自治体の財政健全化を促すため、2009年度から5年間の時限措置で「第三セクター等改革推進債(以下、三セク債)」を創設し、経営改善が見込めない第三セクター等の整理に積極的に乗り出した。

 2016年度の第三セクター等の総売上高を示す収益総額は6兆2529億円(前年度比4.6%増)で、3年連続で前年度を上回った。

◆土地開発公社が10年で3割減

 第三セクター等を法人区分でみると、最多は第三セクター(社団法人・財団法人、会社法法人)の6608法人(構成比88.1%)。次いで、地方三公社が764法人、地方独立行政法人が131法人の順。第三セクターでは、社団法人・財団法人が3147法人、株式会社などの会社法法人が3461法人で、ほぼ拮抗している。

 2007年度からの10年間で第三セクターは1078法人減(14.0%減)、地方三公社も411法人減(35.0%減)と減少が目立つ。地方三公社の内訳は、地方住宅供給公社が28.1%減(57→41法人)、地方道路公社が21.4%減(42→33法人)、土地開発公社が35.9%減(1076→690法人)で、土地開発公社の減少率が際立って大きい。

 土地開発公社は自治体に代わって公用地の先行取得を目的に設立されたため、土地の取得資金が膨らんでいる。資金は主に金融機関からの借入で賄われ、多くは自治体が債務保証している。だが、取得用地を売却できず保有期間が長期化した「塩漬け」の土地を抱える土地開発公社は多く、自治体にとっては財政上の重い課題になっている。

◆「債務超過法人率」、この10年で初めて前年度上回る

 一方、公共性の高い事業を効率的に行うため自治体から分離・独立して運営される地方独立行政法人は244.7%増(38→131法人)と3.4倍増だった。地方独立行政法人には、病院や医療センター、公立大学法人、産業技術センターなど、地域の核になる施設が多く含まれている。

 都道府県別の債務超過の第三セクター等は、最多は北海道の24法人。次いで、岐阜13法人、新潟12法人、青森・長野・広島・山口が各9法人、宮城・秋田・鹿児島が各8法人、京都・兵庫・福岡が各7法人と続く。

 2016年度の第三セクター等の債務超過の法人数は245法人(対象:6253社)で、債務超過法人率(全体法人数に占める債務超過法人数の比率)は3.9%になり、前年度(3.8%)より0.1ポイント上昇した。

 ここ10年の債務超過法人率では、2007年度は5.6%だったが、業績不振が続く第三セクター等の経営改善、整理に向けて、2009年度から政府が三セク債の起債などを活用した「抜本的改革」を求めたことで、比率低下に年々拍車がかった。しかし、2016年度はこの10年で初めて前年度より比率が上昇した。

◆依然として補助金頼み

 「第三セクター等の出資・経営等の状況調査」によると、2016年度決算が判明した6253法人の経常利益の黒字法人比率は63.4%、赤字法人比率は36.6%だった。また、利益額合計は3341億1400万円、赤字額合計は667億9400万円で、2673億2000万円の利益超過となっている。

 この数値だけをみると第三セクター等の業績改善は順調にみえるが、2016年度に自治体から補助金を交付された第三セクター等は2746法人で、補助金の合計額は5686億円に達する。

 2746法人のうち、2558法人が補助金を経営収益に繰り入れており、その合計は第三セクター等への補助金の92.7%にあたる5272億円、利益超過額の約2倍に達する。このことからも第三セクター等の経営は補助金に支えられており、三セク全体の実質的な経常収支は赤字とみることもできる。

 第三セクター等の自治体からの借入金残高は、4兆1632億円に達する。このほか、金融機関などに自治体が損失補償・債務保証する債務残高は3兆2240億円にのぼる。

◆政府は改革の成果を主張する

 さらに、自治体の出資総額(4兆8820億円)を加えると、総額12兆2693億円もの資金を第三セクター等への財政支援として自治体が負担している。このことは第三セクター等の自助努力に限界があり、運営資金の大部分を自治体に依存し自立できていない状況を浮き彫りにしている。

 換言すると、第三セクター等の経営の動向によっては、今後自治体が第三セクター等に多額の不良債権、保証債務を背負い込む財政リスクを負っていることを意味している。

 政府は2009年度から2013年度に自治体が集中的に「第三セクター等」の抜本的改革を行うことを要請し、第三セクター等の経営健全化に取り組んできた。この抜本的改革期間の実績(総務省発表)では、地方公共団体が行う損失補填・債務保証が45.5%減(7.5兆円→4.0兆円)、債務超過法人数が31.1%減(409法人→282法人)なったことを挙げ、相当の成果があったとしている。

◆財政と地域特性のバランスを考慮すべき

 こうした反面で5687億円の補助金が投入され、その92.7%が第三セクター等の経営収益に計上されている。

 2017年12月、政府の経済財政諮問会議は、民間議員から『第三セクター・公社については、依然多くの赤字団体、巨額の累積債務等が見られることから、「第三セクター等の経営健全化等に関する指針に基づく」取組を全体としてフォローアップし、各自治体がこうした団体に対する抜本的な経営改革方針を策定すべき』との提言がなされた。第三セクター等の経営健全化の推進には、今後も不断の改革が不可欠になる。

 自立もできず処理も先送りされた第三セクター等は、自治体財政へのリスクとして跳ね返ることが懸念される。第三セクター等にも民間企業と同様、事業として成り立つかの『事業性評価』を適用すべきだろう。

 ただ、交通機関や介護関連など、社会インフラに関わる第三セクター等は高齢者や社会的弱者の住民の生活支援に欠かせず、採算性だけで判断すべきでないケースもある。第三セクター等の健全化と整理は、自治体の財政面と地域特性を考慮したバランスを勘案することが、今後は一層重要になっている。

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