【専欄】香港を抜いた深セン 5年後の華南経済圏は

2018.10.16 05:55

 中国の華南経済圏は5年後にどうなっているだろうか。イノベーション都市として深セン(広東省)が目覚ましい発展を遂げているが、これまではあくまでも香港の後背地であり、香港の発展なしには存在し得なかった。だが今後はむしろ深センが華南経済圏の中心となり、香港や東莞(とうかん)、広州、マカオ、珠海といったところが周辺を取り囲んでいくのではなかろうか。華南経済圏は、賃金上昇に伴う労働集約型産業の衰退で地盤沈下していたが、新たな経済圏として再び脚光を浴びることになろう。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 筆者が深センを最初に訪れたのは1976年、いまから42年前だった。当時の深セン駅周辺はのどかな田園風景が広がっていた。発展が始まったのは、80年に深センが中国初の経済特区に指定されてからだ。低賃金を武器に労働集約型の産業が集積していった。外部から豊富な労働力が大量に流入してきたので、低賃金の強みを維持できた。

 ところが2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟してからは、付加価値向上、産業の高度化が叫ばれ、賃金も上がっていくようになる。さらに2010年代に入ると、イノベーションの拠点として新たな発展を遂げる。スマートフォン、電気自動車、ロボット、ドローン(小型無人機)など新興産業が相次いで台頭してくる。

 昨年はついに域内総生産(GDP)が2兆2400億元となり、香港の2兆6600億香港ドルを抜いてしまった。中国国内の都市比較でも、GDP総額では上海、北京に次いで第3位だが、1人当たりGDPではトップに立っている。

 香港はGDPに占める製造業の割合が、わずか1.1%(16年)にまで減ってしまった。かつてに比べると、起業意欲は衰え、現状通りの生活水準が維持されれば満足、といった空気が漂っている。勢い盛んな深センとは好対照だ。

 9月末には、広州と香港を結ぶ高速鉄道が開通した。これによって深センから香港へは、わずか15分ほどで行き来できるようになった。

 深センの中心部からやや西寄りの地域では、大規模な「前海自由貿易区」を建設中だ。特区の中の特区といった位置付けで、とりわけ注目されるのは「金融エリア」を設け、香港の資金を大々的に集めようとしていることだ。いずれはここが華南経済圏の「中心点」になっていくのではなかろうか。

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