米の知能はカナダを目指す インド人IT技術者、ビザ規制で流出増

2019.1.14 13:20

 移民に厳しいトランプ米政権が専門職向け査証(ビザ)の締め付けを強めたことで、有能なインド人IT技術者らの隣国カナダ移住が相次いでいる。「知能の流出で米国は大損だ」と皮肉る技術者。世界のIT産業を牽引(けんいん)してきたシリコンバレーには危機感が募る。

 「トランプ後」3倍

 「駐車場を探し回ったことはありませんか」。インド西部ジャイプール出身のショビット・カンデルウェルさん(28)は駐車予定時間や地域を入力すれば、最も安い近隣の駐車場に誘導してくれるスマートフォンのアプリを開発、インドの地方都市で実験を始めた。「成功したら大企業に売り込みたい」と意気込む。

 カンデルウェルさんはニューヨークの名門コロンビア大と同大学院を修了。大手銀行やシリコンバレーで働いた経歴を持つ一流のIT技術者だ。米国で転職後、就労ビザを更新できず、昨年8月にカナダ経済の中心地トロントに移住。米国時代の貯蓄を元手に同じ境遇の仲間と会社を立ち上げた。

 高度な技能を持つ人向けの米就労ビザ「H-1B」は例年10万人余りに発給され、うち7割がインド人だ。低賃金で有能な人材を求めるIT産業に重宝されてきたが、トランプ政権は「米国人の雇用を奪い、賃金を押し下げている」として手続きを厳格化した。

 更新できない人が相次ぎ、同じ英語圏のカナダなどに新たな職を求める人が続出。トランプ政権が発足した2017年にカナダの永住権を取得したインド人は高度技能者を中心に3万人超で前年の3倍以上だった。「トランプ支持者の白人労働者には到底できない仕事」と自負するカンデルウェルさん。「移民を切る政策は米国の体力を弱め、国への背信行為だ」と手厳しい。

 企業に危機感

 IT技術者向け転職サイトをトロントで運営するインド西部ムンバイ出身のビクラム・ラングニカさん(38)もシリコンバレーで働いていた技術者だ。勤務していた交流サイト大手「リンクトイン」が買収され、規制強化によって新たな勤務先ではビザを更新できず、米国生活を諦めた。

 米国と比べてカナダの永住権取得は極めて容易で、社会保障も充実し治安もいい。カナダにも「税収が増え、有能な経験者を雇える」という利点があると指摘する。

 立ち上げ以降、100万ページビューを超える同転職サイト。就労希望者の大半がシリコンバレーなどで働くインド人や中国人だ。人材と知能流出に焦る米国の各企業はビザ政策見直しを求めているが、政権側に聞く耳はない。ラングニカさんは「トランプ政権のおかげでカナダはIT大国になれるよ」と笑った。(トロント 共同)

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