国境またぐ巡礼回廊建設も和解進展なし 糸口探るパキスタン、インドは牽制

2019.4.16 06:27

 パキスタンにあるシーク教寺院に隣国インドの信者がビザなしで自由に巡礼できるよう、国境をまたぐ道路「カルタールプル回廊」の建設が進んでいる。今年、開祖生誕550年を迎えるため、領土紛争を抱え核開発を競う両国が、少数派信者のため協力した。パキスタン新政権は関係改善の糸口と捉えるが、一筋縄ではいかないようだ。

 「軍も平和を要望」

 シーク教徒は世界に2000万人以上いるとされ、インド北部からパキスタン中部に国境をまたぐように多くの信者が暮らす。カルタールプルはパキスタン中部パンジャブ州ナロワルの東に位置し、シーク教の開祖ナーナクが16世紀に教徒のコミュニティーを設け、死去するまで18年間暮らしたといわれている。

 パキスタン側に3キロ入った平地に、荘厳な雰囲気をまとった真っ白な寺院がそびえる。過去3度の戦争を経験した両国の治安部隊が国境のフェンス沿いで厳重に警戒する中、インド側の信者たちは望遠鏡で「近くて遠い聖地」を見続けてきた。

 パキスタン政府がビザなし入国を認める方針は昨年8月に明らかになった。カーン首相の就任式に出席したインド・パンジャブ州政府代表者がパキスタン軍トップから伝えられ「和平を望むとの話もあった」と述べた。

 これまでインドの信者はビザを取得して空路など別のルートでパキスタンに入国し巡礼していた。しかし今年は訪問希望者が多数見込まれる。信者や政治家が約20年前からビザなしで寺院を直接訪問できるよう、パキスタン側に働き掛けていた。

 「インドとの関係発展に期待」「軍もインドとの平和を要望」。パキスタン側で回廊の起工式があった昨年11月28日、関係改善に期待を示したカーン氏の発言が翌日のインド紙1面に躍った。

 政府内で意見不一致

 しかし同日、インドのスワラジ外相は「回廊だけでは対話に結びつかない」と牽制(けんせい)した。回廊を両国関係改善の糸口としたくないインドの事情を、外交専門家は「外務省と治安機関は、回廊がテロリストの進入路になるとして建設に慎重だった。首相府が独断で決めた」と説明する。

 インドでは今年5月までに下院選が予定されている。2期目を狙うモディ首相と周辺が選挙対策として慎重論を聞き入れず回廊建設は実現したが、政府内に意見の不一致があるという。

 パキスタン側の起工式は日本メディアも招いて盛大に行われた。しかしインド側ではこの2日前に起工式が行われ、あまり報道もされず「パンジャブ地方での出来事」と冷めた見方が広がっている。(イスラマバード、ニューデリー 共同)

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