【専欄】驚愕の中国ペット市場 ノンフィクション作家・青樹明子

2019.4.25 06:22

 北京で暮らしていた頃、中国人の若者と、某日系スーパーに寄る機会があった。ここは日本製食品も多く、精肉コーナーには和牛も並ぶ。「和牛だ!」と思った途端、楽しい想像が頭に浮かぶ。「今晩はすき焼きにしよう!」

 すると私より先に、同行の若者が声を上げた。「和牛だ!ソンちゃんに牛肉鍋作ってあげよう!」

 ソンちゃんとは、ペットの犬である。私とソンちゃん、今晩はほぼ同じメニューのようだ。

 ラジオ番組で「何か一つだけ持って逃げなくてはいけないとき、何を選ぶか」という話題を取り上げたことがある。リスナーの女子高生は即答した。「ペット!」

 中国のペット市場が今、とんでもないことになっている。統計によると、2010~16年、中国ペット産業の年間成長率は49.1%で、20年には2000億元(約3兆3300億円)を突破するという。日本を超え、米国に次ぐ世界2位のペット消費市場になる見込みだ。急成長する中国ペット市場の担い手は、1990年代生まれの若者たちである。中でも、「95後(95~99年生まれ)」と言われる新世代は、ペットにかける愛情の度合いが半端ない。

 ペットの中でも高い人気を誇るのが猫だが、猫用フードで最近人気なのが、オーダーメードの猫草だという。他にも糖尿病予防に糖質をコントロールしたもの、猫の種類に合わせた特製品など、猫用フードは2年連続で売り上げ増加率が100%を超えた。

 ペットのおやつ市場も拡大している。猫用プリン、犬用ポテトチップス(コーラ味なのだそうだ!)、犬用クッキー(チーズ風味らしい)などが人気で、味だけではなく、栄養面も重視されているという。

 この新たな市場に向けて、世界中の企業が熱い視線を送っている。複数の米国企業は、猫用全自動トイレ・リッターロボットを売り出し、スウェーデン家具大手イケアは、犬・猫用にデザインしたペット家具を発売し、欧州ファッションブランドのモンクレールは、犬用高級ダウンコート並びにベストやパーカーを売り出している。

 夢のような市場に思えてくるが、もちろん問題もある。

 早くから中国のペットの市場に注目している三井物産(中国)の兵藤英明さんによると、今後ペットの高齢化が問題になってくるという。

 「中国でペットブームが起きてまだ数年。ペットの病院や保険など、まだまだ発展段階のものも多く、これから整備していく必要がある」

 一気に飛躍する「リープフロッグ現象」は、中国のあらゆる側面で見られるが、3段跳び以上の成長は、傍で見ているだけでも驚きである。

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