【ビジネス解読】窮地のウナギに一筋の光明 人工稚魚を民間の池で成魚に育成

2019.7.12 06:50

 絶滅が危ぶまれているニホンウナギに一筋の光明が差し込んだ。完全養殖の商業化を目指す水産庁などが、研究室で人工孵化させた稚魚「シラスウナギ」を民間業者の養殖池で出荷サイズの成魚まで育てるのに成功した。かば焼きに加工しても天然稚魚を育てたウナギと遜色なく、関係者は期待を寄せる。ただ人工稚魚の価格は天然の10倍で、生産コストの削減が課題だ。卸値や小売価格の高騰でウナギを食べる習慣も薄れつつある中、商業化の早期実現が急がれる。

 ウナギは9割以上が養殖もので、現在の養殖は、河口などで採取した稚魚を民間業者が養殖池で育てて出荷している。近年は稚魚の不漁が深刻化しており、今年の国内漁獲量(漁期は昨年11月~5月)は前年実績を6割下回る3.7トンと2年連続で減少。平成25年に記録した5.2トン以来、6年ぶりに過去最低を更新した。

 国内漁獲量は昭和50年代前半に50トン前後あったのを境に、長期的な減少傾向が続く。平成26年には絶滅危惧種に指定された。このため、卵から人工孵化させて育てた成魚に再び受精卵を生産させ、次の世代を誕生させる完全養殖への期待は高い。

 今回は、人工孵化させた稚魚を研究室ではなく、民間の養殖池でも成長させられるかどうかを実験。同庁から委託を受けて研究に取り組む国立研究開発法人の水産研究・教育機構が昨年7月、大分県と鹿児島県の水産会社2社に稚魚約300匹を提供した。養殖池に移す際に輸送ストレスなどで死亡する稚魚が一部出たものの、それを除けば、天然の稚魚と同じやり方でも約10カ月かけて200グラム程度の出荷サイズまで育成できたという。

 ただ、現状では価格がネックだ。人工稚魚1匹で5400円程度もするため、商業ベースには乗せられない。高価なのは、孵化した仔魚(幼生)が稚魚になるまでの生存率が低いためだ。完全養殖は22年に成功したものの、いまだ人工仔魚の飼育技術が確立できておらず、量産化が難航。国内で必要な稚魚は年間1億匹だが、数千匹しか育てることができない。稚魚までの飼育期間も海洋の2倍の約1年かかっている。

 人工仔魚の生存率を高め大量生産を実現するため、餌の改良のほか、栄養摂取量を増やす自動給餌機の改良を機械メーカーなどと進めているが、納得のいくレベルまでには到達しておらず、「試行錯誤」(水産庁)が続く。

 そもそも、ウナギの生態は謎が多い。川で育ったウナギは、海で卵を産むため川を下り、海で生まれた卵が稚魚となって川に上るために河口付近に集まってくることが分かっている。だが、特に卵が稚魚になる海洋での生態には未知の部分が多く、はっきりしたことが分かっていない。

 同機構は「最終的には、養殖で必要な稚魚の2~3割を人工稚魚に置き換えるようにしたい」(増養殖研究所)と、量産化研究の初期に話していたが、手探り状態はなお続きそう。商業化のめどが立つには時間がかかりそうだ。

 一方、足元ではウナギの消費が最も増える土用の丑の日が近づく。稚魚の不漁が続いた今年は今月27日。養殖ウナギ向け稚魚の大半と、かば焼きといった成魚の加工品は、いずれも海外からの輸入で賄われた。水産庁は「供給に問題なく価格への影響も小さい」と説明する。

 だが、今年は燃料コストの上昇もあってウナギの小売価格は高止まりが続いているとみられる。ある大手スーパーの丑の日用商品は、主力のかば焼きが1匹3千円前後と前年より1割ほど高いという。

 値段が高いウナギを敬遠する消費者が多いとみたイオンは、代替としてサケのかば焼きを100グラム当たり500円以下で販売。サバや豚バラ肉といった既存の代替商品のレパートリーを追加した。養鰻業者は「そのうちウナギがスーパーの棚からなくなるかもしれない」と嘆く。

 総務省の家計調査によると、丑の日がある昨年7月にウナギのかば焼きを買った家庭は約27%。18年までは家庭の半分が購入していただけに、消費者のウナギ離れは顕著になっている。

 和食の代表の一つともいえるウナギ。完全養殖で復権し、かば焼きを“夏のスタミナ食”としてためらうことなく手に取ることができる日を期待したい。(佐藤克史)

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