年金改革 中小に危機感も 非正規加入促進、保険料の負担増

2019.9.13 06:38

 安倍晋三首相は改造内閣発足後の記者会見で、全世代社会保障改革の司令塔として検討会議を設け、来週にも第1回会合を開催する意向を示した。政府は年金制度について、中小企業でパートやアルバイトなど非正規として働く人の厚生年金加入を進める方向で検討に入っている。だが、厚生年金の保険料は労使が折半するため、経営者側は負担増に危機感を抱く。従業員側も、将来的に年金は増えるものの、当面は保険料の支払いで手取り収入が減ることを不安視する。制度改正に幅広い理解が得られるかどうかが焦点になりそうだ。

 トリプルパンチ

 「いったいどれだけ負担が増えるのか。商売をやめる会社も出てくるのではないか」。三重県四日市市で高齢者施設向けに給食提供を手掛けるシルバーフードサービスの古谷賢治社長(50)は懸念する。

 同社の従業員は25人で大半がパート従業員。現行制度で短時間労働者の厚生年金加入は「従業員501人以上の企業」が対象だが、要件が撤廃されれば十数人分の新たな保険料が重い負担となって経営にのしかかる。

 古谷氏は「最低賃金が年々上昇し、4月からは従業員の有給休暇取得が義務化された」と語り、保険料増は“トリプルパンチ”に映る。経営の行き詰まる会社が増えれば、地域経済にも打撃になると指摘する。

 厚生年金の短時間労働者加入拡大は、過去にも徐々に進められてきたが、経済界の大きな反発を受け曲折した経緯がある「難事業」だ。

 金融庁の審議会が参院選前にまとめた「年金以外に老後資金2000万円が必要」とする報告書で不安が高まったこともあり、政府は制度改正で将来の年金が手厚くなる利点をアピール。加入拡大に理解を求める算段だ。

 人手不足加速も

 「年金の給付水準を確保する上でプラスであることを確認」。厚生労働省が8月末に公表した5年に1度の年金財政検証の結果説明資料には、制度改正の効果を強調する文言が並ぶ。

 高齢者の受け取り始めの年金額が、現役世代の平均手取り収入に対して何割かを示す「所得代替率」は、現在61.7%。現行制度に手を付けなければ将来、経済成長が標準的なケースで50.8%まで目減りする。

 企業要件を撤廃し、短時間労働者125万人が厚生年金に加入する試算では、代替率が51.4%に上昇。加えて「収入が月8万8000円以上」となっている賃金要件をなくせば、計325万人が加入し代替率が51.9%に。さらに条件を緩和すれば計1050万人が加わり、代替率も55.7%まで改善すると強調する。

 「将来受け取る年金が増えるならメリットがあるかもしれないが、今の収入から保険料が引かれると生活が厳しくなる」。福岡県飯塚市の福祉施設で週3~4日、パートとして働く西山陽子さん(40)は複雑な心中を語る。会社員の夫と2人の子供の4人暮らし。西山さんの収入が家計を支えており切実な問題だ。

 経営者の間には、企業要件を撤廃しても、厚生年金加入の対象から外れようと勤務時間を減らす従業員が出て、結果的に人手不足が加速するのではと心配する声もある。

 制度改正を議論している厚労省の有識者懇談会でも、賛否で意見が割れている。法政大の菅原琢磨教授は「雇用される企業によって加入要件が違うのは合理性に乏しい」と指摘。中小企業に配慮して段階措置を設けた上で「最終的には企業要件をなくすべきだ」と主張する。

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