【専欄】台湾・蔡政権は「中国市場」を捨てられるのか

2020.1.21 10:30

 台湾の総統選挙では「中国との距離感」が最大の争点となり、「一国二制度」を拒否した蔡英文氏が香港デモを追い風に圧勝した。だが、2期目の蔡氏にとっても「中国との距離感」をどうするかをめぐって、大いに頭を悩まされそうだ。とりわけ巨大な「中国市場」を捨てて、自分たちだけでやっていけるのかどうか。東南アジアなどとの連携強化で、その穴を埋められるのかどうか。選挙期間中に、彼女の口から明確な戦略はついぞ聞かれなかった。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 蔡政権は1期目に、中国に進出した企業を台湾に戻す政策を推し進め、戻ってきた企業には各種の優遇策を与えたりした。こうした政策のもとで台湾の対中投資は減少傾向が続いており、中国に滞在する台湾人の数も減ってきた。

 だが、輸出は投資ほどには減っていない。香港も含めた中国への輸出額はいまも、依然として全体の約4割を占めている。このところ、台湾企業から多くのIT技術者が中国に引き抜かれているという動きもある。台湾の産業界でも、中国との結びつきなしに台湾経済が成り立つと考えている経営者はあまりいないのではなかろうか。

 中国への輸出の最大品目は、電子・電気製品やその部品である。中国の経済成長率はこのところ低落傾向にあるとはいえ、この分野での成長はなお見込める。中でも半導体需要は今後も続いていこう。中国は半導体の自給率がいまだに2割程度にとどまっており、特に高級品の海外依存度は高いからだ。

 もっとも中国は、自給率を高めるために政府が懸命に後押ししているので、その成果が思いのほか早く出てくるかもしれない。それに台湾が対抗していくには、より高度な技術を開発していく必要もあろう。

 この有望市場に対して、蔡政権はどのような戦略をもって望むのだろうか。技術を盗まれるなど、工場進出に懸念があるのは分かる。では投資はせずに、台湾で製造した製品を輸出することに徹するのだろうか。あるいは中国という有望市場の代わりに、東南アジアなどへ方向転換するのも戦略の一つだろうが、とても中国市場の減少分を補えるとは思えない。

 半導体業界は中国の台頭だけでなく、日米や韓国も巻き込み、競争がより激化している。それだけに生き抜いていくのは並大抵ではないが、中国市場を軽視して台湾の戦略は成り立たないのではなかろうか。

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