【高論卓説】新型肺炎で外出できない中国消費者 暇つぶしはネット、ゲーム関連株も急上昇

2020.2.7 07:53

 新型コロナウイルスによる肺炎が日中のメディアを騒がせている。筆者も中国で重症急性呼吸器症候群(SARS)や鶏インフルエンザの流行を経験しているが、そのころは日本と中国の距離がここまで「近い」状態ではなかったと記憶している。(森下智史)

 そんな騒動の中、安否確認を込めて中国の友人たちと微信(ウィーチャット)で連絡を取っている。幸い友人やその家族に罹患(りかん)した者はいなかったが、総じて聞かされたのは暇というもの。

 上海在住の30代女性と連絡を取った際「連絡ありがとう」と熱烈歓迎してくれたのだが、雑談が2時間半を過ぎると彼女の歓迎が好意や病気への不安などによるものではなく、単に暇を持て余しているだけだと察知せざるを得なかった。

 湖北省内は言うに及ばず、上海や北京、広州などの大都市でも感染拡大を防ぐために「なるべく外出しない」という雰囲気。市民も感染への恐怖もあることから、外へ出ることを控える状況が1週間以上も続いている。中国の調査会社によると、微博(ウェイボ)の暇つぶしに関する話題ページで最も多くつぶやかれたキーワードは「吃」、つまり「食べる」というもの。イベントや映画すら休止になってしまった今、とにかく家で動画サイトやゲームをしながら何かを食べる以外にすることがない。

 春節後の上海株式市場で株価が大きく下落する中、医療とゲーム関連の会社は逆に株価を上げており、持て余した時間をゲームへとぶつけていることがよく分かる。また、外出しない消費者に向けたインターネット、モバイルを使用したサービスもより強化された。

 モバイル決済・支付宝(アリペイ)上で「春節不出門」と検索すると、そのまま次世代スーパー盒馬(フーマー)やデリバリーサービス餓了麼(アーラマ)、電子商取引(EC)サイト・天猫(Tモール)のサービスに直結、「家から出なくても便利に」過ごせることを強調。さらに別の企業では春節休暇が延びた子供向けに「オンラインお勉強お手伝いサービス」を提供するケースも見られた。

 日本では緊張感のある報道が流れているが、健康な状態の消費者たちは、非常時にあってもとにかく便利に楽しく過ごす方法を探すポジティブさで乗り切っているのである。同時に友人たちから多く聞かれたのは日本に対する感謝の言葉だった。

 「日本政府が支援物資を送ってくれた」「日本のドラッグストアが“武漢加油(がんばれ武漢)”という看板を立てて、マスクも割引販売した」「日本の企業が支援金を寄付してくれた」。全くのデマながら「日本が1000人の医療チームを武漢に派遣した」といったようなニセ情報もSNS(会員制交流サイト)上で拡散されるなど、日本の一挙一動に好感を持って見つめていたのである。そればかりではなく、山西省に住む20代の女性からは「今回は日本に迷惑をかけてしまって申し訳ない」というような言葉まで耳にした。

 皮肉な話だが、新型コロナウイルスという見えない敵によって、中国における日本への感情は驚くほど良くなっている。一部の国ではウイルスへの恐怖と中国への感情が相まって差別的な言動が起こっているようだが、流されるのであればギスギスとした攻撃的な感情ではなく、心温まる気持ちでありたいものである。

【プロフィル】森下智史

 もりした・さとし 中国トレンドExpress編集長。1998年2月から2015年5月までの17年間、中国・上海に滞在。上海では在留邦人向けのフリーペーパーの編集・ライター、産業調査などに従事。帰国後の18年1月に日中間の越境EC支援会社トレンドExpressに入社し、現職。

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