【道標】新型肺炎、日本経済への悪影響 流行長期化なら今年マイナス成長も

2020.2.24 13:11

 中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が、深刻化している。新型肺炎によって「第2の経済大国」中国の景気が減速する場合、日本と世界全体の経済に及ぼす悪影響は、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した2002~03年よりも格段に高まりそうだ。

 03年と比べると、中国の実質国内総生産(GDP)は4倍に、世界のGDPと輸入額に占める中国の割合は2倍以上に拡大した。45万人だった訪日中国人旅行客は19年には959万人に達し、日本の消費の要となっている。

 新型肺炎の先行きは予断を全く許さない状況にある。日本の経済にとっても当面の最大のリスクだ。そこで中国の経済成長率やインバウンド(訪日外国人客)などについて2つのシナリオを想定し、新型肺炎の日本経済への悪影響を検討してみた。

 1つ目は、新型肺炎の流行が3カ月程度で終息に向かうという楽観的なシナリオだ。中国の実質経済成長率は20年1~3月期に大幅に減速するものの、4~6月期に経済活動が正常化することで、新型肺炎の影響は20年通年の成長率を0.3ポイント鈍化させる程度にとどまると予想する。

 中国政府による団体旅行の禁止令もあって、海外旅行客が減少する。このうち訪日旅行客は100万人減少し、経済波及効果も含めて、日本のGDPを2500億円程度押し下げると見込む。

 2つ目は、中国国内を中心に新型肺炎の感染がさらに拡大し、流行が1年程度続くという悲観的なシナリオである。中国の20年の成長率は1.4ポイント程度減速し、訪日旅行客は400万人減少するとみている。

 外国為替市場では「安全な通貨」とされる円が選好され、5円程度円高ドル安が進むことも想定している。

 日本経済への影響度を試算すると、実質成長率は楽観的シナリオで0.2ポイント程度、悲観的シナリオでは0.9ポイント程度押し下げられる。この試算には中国の景気減速の影響に加え、貿易量の減少や中国人海外旅行客の落ち込みを通じた第三国の景気減速、経済の先行き不透明感の高まりによる消費、投資の低迷といった間接的な効果も含まれている。

 消費大国である中国の景気減速は商品価格を低下させる。これは日本の交易条件(輸出品と輸入品の交換比率)を改善させ、経済の下支え要因となるが、外需の悪化を幾分和らげる程度にすぎない。悲観的シナリオが現実化すれば、20年の日本経済は9年ぶりのマイナス成長に転じるだろう。

 以上の試算には、新型肺炎の感染が日本など中国以外の国・地域で蔓延(まんえん)した場合の経済への悪影響や、サプライチェーン(部品の調達・供給網)の寸断による景気悪化は織り込まれていない。感染が拡大、長期化すれば、20年夏に開催される東京五輪に関連した、消費を中心とする需要への悪影響は避けられない。このため悲観的シナリオが成長率に及ぼす実際の影響度は、前述の0.9ポイント程度を上回り、少なくとも1ポイント以上とみるべきだ。

 新型肺炎の発症者は日本国内でも増えており、日本人同士の感染も広がりつつあるとみられる。一日も早く終息し、深刻な事態に発展しないことを強く願う。

【プロフィル】神田慶司

 かんだ・けいじ 大和総研シニアエコノミスト。1981年福岡市生まれ。一橋大経済学部卒。専門は日本経済、財政、社会保障。

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