【ビジネス解読】カネやモノの動き減速 滞る経済のグローバル化

2020.7.21 06:50

 新型コロナウイルスの感染拡大を契機として、世界の経済成長の裏付けとなってきた経済のグローバル化にブレーキがかかっている。感染拡大による世界経済の混乱は自国産業保護への意識を高め、多くの国で海外からの投資の受け入れへの警戒感が高まる。また世界の貿易量も大幅減となることは避けられず、経済活動は低迷している。ただしヒトやモノ、カネの国境を越えた移動が経済を発展させるという原則は今後も変わらない。グローバリズムを終焉させるのではなく、新たな形へと変革させる取り組みが必要だ。

 カネやモノの動き減速

 「われわれの技術の基盤をしっかりと守るための方策を確実に前進させる」

 英国のジョンソン首相は5月20日の議会で、英国の産業を海外資本から守ることの重要性を訴えた。

 英国は海外から積極的に投資を受け入れる開放性で経済成長を下支えしてきた。経済協力開発機構(OECD)によると、英国が2005年から19年の間に受け入れた海外からの直接投資額は約1兆4千億ドル(約155兆円)で、ドイツの約2・4倍、フランスの約3・1倍にのぼる。

 それでも英国が海外からの投資に神経をとがらせる背景には新型コロナ後の経済の混乱がある。業績が悪化した企業は資本調達の必要性が増し、株価下落は買い手企業にとって安値で買収できる好機となる。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、英国では4月、中国の投資会社が買収した英国の半導体メーカーの経営陣として中国国有投資会社の幹部らが送り込まれると公表され、問題となった。ジョンソン氏は「英国のテクノロジー企業が本当の意図を隠した国に買い上げられることを懸念することは当然だ」と強調している。

 先端技術や医療に関連する企業を海外資本から守る動きは米国や日本でも進む。新型コロナによる経済の混乱と中国への警戒感があいまって、経済のグローバル化の要素である国境を越えたカネの動きが減速しているかたちだ。

 新型コロナはモノの動きにもブレーキをかけている。世界貿易機関(WTO)のアゼベド事務局長は6月23日の声明で、「貿易の落ち込みは歴史的な大きさだ」と言及した。WTOは今年4~6月期の世界の貿易量は前年同期比で18・5%落ち込むとの見通しを示している。4月に示した20年の貿易量が32%下落する「最悪シナリオ」は回避されつつあるが、感染拡大第2波なども考慮すれば予断を許さない状況が続く。

 中国依存の影響大きく

 新型コロナの感染拡大の発端となった中国は各国の製造業が生産拠点を置く「工場」であり、各国企業が母国から製品を輸出する「市場」でもある。中国は世界中に観光客を送り出す発信地でもあり、世界経済の中国依存が新型コロナの衝撃を大きくした。

 経済のグローバル化のひずみは新型コロナ前からの現象という側面もある。

 その象徴が「米国第一」を掲げるトランプ米大統領だ。トランプ政権は経済成長を続ける中国の産業政策を不公正だと批判し、日本や欧州連合(EU)にも矛先を向けてきた。通商問題で紛争仲介機能を担うWTOもやり玉にあげる。

 世界の貿易量を世界の国内総生産(GDP)に対する比率でみると、08年の約61%をピークに頭打ちとなっている。1970年代から続いてきた貿易量の増加は転換期を迎えている。

 ただし、冷戦終結後に加速したグローバル化が世界の経済発展を可能にしたことも事実だ。国連はグローバル化について「2000年に50兆ドルだった世界のGDPを16年の75兆ドルに引き上げることに貢献した」としている。グローバル化のひずみを資本移動や貿易を制限する反グローバル化で解決しようとすれば、世界経済は退潮しかねない。

 こうした中、EUを離脱した英国が日本やオーストラリア、ベトナムなどが参加する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加に関心を示すなど国際連携の新たな動きもある。今年から本格運用が始まった地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」も各国の自主性を尊重しながら国際協力を進める取り組みだ。

 米シンクタンク、新アメリカ安全保障センターのリチャード・フォンテーヌ会長は米誌フォーリン・ポリシーへの寄稿で「かつて各国を貧しくした孤立主義や保護主義とグローバル化を入れ替えることはばかげている」と指摘。グローバリズムの新局面では、より限定的な形の国際連携に関する議論が重要だとしている。(小雲規生)

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