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製造業国内回帰で地方皮算用 経済波及の鍵握る「ものづくり特区」開設

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製造業国内回帰で地方皮算用 経済波及の鍵握る「ものづくり特区」開設

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海外から冷蔵庫の生産が移管されるシャープ八尾工場の生産ライン=大阪府八尾市  パナソニックやシャープ、キヤノン、ダイキン工業、TDKなど大手メーカーの間に生産拠点を海外から国内に戻す動きが広がっている。円安の進展で日本からの輸出品の競争力が高まっていることに加え、「世界の工場」と呼ばれる中国で人件費や電気代が高騰するなど、海外生産のメリットが低下していることが背景にある。製造業の国内回帰は、地方創生を重点政策に掲げる安倍晋三政権にとっても追い風になる。ただ、先行きへの不安から大規模投資に慎重な企業もある。国内回帰の流れを定着させるため、経済特区に生産拠点を開設した企業への優遇策を手厚くするなどの支援を求める声も高まっている。

 円安背景に転換加速

 家電大手のパナソニックは、中国を含め海外で生産している日本向け家電約40機種を順次、国内生産に切り替える。縦型洗濯機を静岡県袋井市の工場、電子レンジを神戸市の工場に生産移管する方向で検討している。既に家庭用エアコンは滋賀県草津市の工場への移管を一部で始めている。1ドル=120円前後まで円安が進み、海外で生産した製品を国内で販売しても採算がとれなくなっているためという。

 一方、シャープの高橋興三社長も先月、テレビや冷蔵庫の生産の一部を栃木県矢板市や大阪府八尾市の工場に移す方向で検討していることを明らかにした。高橋社長は「1ドル=120円で(国内生産に)移した方が良いものは出てくる。工程数の少ないものから移したい」と話す。

 キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長も、円安を背景に今後3年をめどに生産額ベースで国内生産比率を現行の43%から60%程度に高める方針を示した。1~3年周期で、事務機などの現行機種を減産し、新機種製造へと切り替えるが、このタイミングで海外生産を減らし、日本で新機種を生産する態勢にするという。

 御手洗会長は「工場の自動化や内製化で生産効率を高めてきた成果が出てきており、今こそ日本で製造を強化するタイミング」と指摘する。さらに「生産現場の人材の質は日本が圧倒的に高い。優れた技術者により、(国内の)生産力が上がる」と強調する。

 電子部品大手のTDKも中国で生産する部品の3割を段階的に国内に移管する方向で検討に入った。TDKは、中国で25の主要生産拠点を持ち、売上高全体の4、5割程度が中国生産とみられる。このうち、スマートフォンや自動車向け電子部品の生産を順次国内生産に切り替える。

 同社によると、中国の工場の従業員の定着率が落ちているほか、人件費も高騰している。こうしたリスクを軽減するため、秋田県や山梨県にある既存工場の遊休施設を活用する方向で検討しているという。

 このほかダイキン工業は家庭用エアコンの一部生産を中国から草津市の工場への移管を進めているが、さらに台数を増やす方針だ。ホンダも小型車の生産を英国工場から国内に移すとともに、アジアで生産する原付きバイクの一部を熊本県大津町の工場に移管することを検討している。日産自動車も円安により国内生産のメリットが高まっているとして、日本からの輸出を増やすという。

 かつての日本の製造業の空洞化は、1ドル=70円台半ばまで進んだ円高ドル安の動きに加え、人件費を中心とする国内外の生産コストの格差を主因として加速した。今やその2つの要因が剥落しつつある。

 第2次安倍政権の下で加速した円安により、海外生産品を日本で販売する場合、損失が発生するケースさえあるという。

 一方、過去数年で中国や東南アジアの最低賃金が上昇。現地では給与や社会保険料も上昇を続けている。日本貿易振興機構(ジェトロ)によれば、10年前に比べ中国に進出した日本企業の平均月給は米ドル建てで2倍となり、現地生産のメリットは急激に低下している。

 また、「特に中国では安定的な労働力を確保するのが難しくなっている」(電機メーカー幹部)との声も出ている。現地では社員の日本企業への忠誠心が低く、突然、集団で出社してこなくなるケースさえあるという。労働者を集めようと条件を引き上げた他のメーカーに移ってしまうことが珍しくないとみられている。

 企業に問い合わせ増

 日本企業の国内回帰の動きは、日本各地に新たな雇用を生み出し、地方経済を後押しするとの期待が高まっている。国内回帰方針を明らかにした企業には、地方自治体からの問い合わせが増えているとの声も聞かれる。

 一方で、国内回帰による雇用拡大効果は限定的との見方もある。例えば、パナソニックやシャープ、ダイキン工業は国内での生産移管に際し、新たな工場を作らず、既存施設の空きスペースにラインを設けて対応する。これに加え、工場の自動化や内製化で生産効率を上げるなどの工夫を行っているためだ。

 それでも、日本企業の国内回帰は税収増加を通じ財政的に苦しい地方を支援することは間違いない。この動きを加速させるためには政府の施策が鍵を握りそうだ。

 国内では東日本大震災以降、全国の原発の稼働が停止し、生産に必要な電気料金が高止まりしているほか、法人税率の引き下げも十分とはいえず、なお海外生産に魅力を感じている企業も少なくない。

 ある電機メーカーの首脳は「電気代や工場新設の優遇措置を与えた、ものづくり特区を作れば、さらに国内に戻る会社も増える」と語り、製造業の国内回帰促進に向けた一段の環境整備に期待を示した。

 ■国内への生産シフトの動き

 パナソニック 洗濯機や電子レンジなど家電の一部(中国)

 シャープ テレビや冷蔵庫など家電の一部(同)

 TDK スマートフォン、自動車向け電子部品(同)

 ダイキン工業 家庭用エアコンの一部(同)

 小林製薬 芳香消臭剤の一部とウエットマスク(同)

 オムロン 家庭用血圧計の一部(中国、ベトナム)

 キヤノン カメラや事務機など(中国など)

 ホンダ 欧州向け小型車(英国)

 河合楽器製作所 ピアノの一部(インドネシア)

 日産自動車 スポーツ用多目的車の増産分(米国)

 ※カッコ内はシフト前の生産国。計画、検討中も含む

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