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【高論卓説】復興オリ・パラ実現へのヒント 被災地企業は技術力で支援を

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【高論卓説】復興オリ・パラ実現へのヒント 被災地企業は技術力で支援を

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 3月初旬、まだ日本列島に寒さが残る頃、日本人は東日本大震災で犠牲となった人々を追悼し、被災地のその後に関心を寄せる。しかし、春の息吹が感じられるようになると、次第に被災地や被災者に思いをはせることがなくなってくる。日本人にとって春は、新しい世界に飛び込み、新しい何かを始める季節、マインドセットを切りかえるからなのだろう。

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 しかし、新しい何かを始めるというその意識は、東日本大震災の被災地で懸命に復興に取り組んでいる企業にも求められることなのだ。

 ダイバーシティ研究所がさる3月13日に仙台市で開催したセミナー「パラスポーツが切り開く産業復興~パラリンピックを契機とした新たなイノベーションの創出を~」は、被災地の企業に新しい何かを始めてもらいたいという思いから企画された。

 韓国・平昌で開かれた冬季オリンピック・パラリンピックにおける日本選手の活躍は記憶に新しいが、次はいよいよ東京オリンピック・パラリンピックである。その成功を通じて、被災地復興を推し進めるものとなることが強く求められているが、その具体的な道筋はいまだに描かれていない。聖火リレーの日数が、被災3県に対して他県より1日だけ多く割り当てられたが、それをもって、「復興オリンピック・パラリンピック」だというのは、ずいぶん寂しい話である。

 いうまでもなく、アスリートが東京で実力を発揮できるようにするために、科学的な見地から効果的なトレーニングを積める環境が整えられ、また最先端の技術を実装した用具・器具が利用できるようにすることが重要である。特にパラアスリートについては、その置かれた状況の厳しさを踏まえ、官民挙げた取り組みを強化すべきだろう。

 例えば、パラスポーツに欠かせない義肢・装具、用具・器具に被災地で長年、事業を行ってきた製造業の技術、ノウハウをつぎ込み、メダルを狙うパラアスリートに提供できないものか。関連しそうな企業が共同でアスリートのニーズを探り、連携して具体的な開発プランを練って進めていけば、アスリートの活躍につながるばかりか、被災地の企業の力を内外に示すことができる。

 仙台市でのセミナーでは、パラアスリートと彼らを支える関係者、被災地で事業を行う企業、団体、行政の関係者が連携の進め方、それによる被災地復興への貢献などを議論した。

 走り高跳びでパラリンピック5大会連続出場を果たした2メートルジャンパー、鈴木徹氏と、長年、鈴木氏をサポートしてきた鉄道弘済会の義肢装具士、臼井二美男氏の鼎談(ていだん)では、企業が既に持っている技術やノウハウを活用することでパラアスリートを支援でき、その結果、新しい製品開発の道筋も見えてくることを示していただいた。例えば、競技用義足に使われる板バネはほぼ海外製が独占しており、鈴木選手が使っているものも海外製であるという。

 また、仙台市にあるベンチャー企業、TESSの代表取締役、鈴木堅之氏からは、仙台市と東北大学の支援で進められた、足こぎ車いす「COGY」の開発の経験に即し、中小企業でも工夫次第で新しい分野に参入できる事例を紹介いただいた。

 そうした事例を被災3県に立地する企業の経営者が参考として、東京オリンピック・パラリンピックに向け取り組みを急いでほしいし、地元自治体も、それを支援すべきである。

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【プロフィル】井上洋

 いのうえ・ひろし ダイバーシティ研究所参与。早大卒。1980年経団連事務局入局。産業政策、都市・地域政策などを専門とし、2002年の「奥田ビジョン」の取りまとめを担当。産業第一本部長、社会広報本部長、教育・スポーツ推進本部長などを歴任。17年に退職。同年より現職。60歳。東京都出身。

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