ビジネス解読

変わる日本人の仕事観 背景には正社員の「不自由さ」

 終身雇用の強み

 「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきたのではないか」

 日本自動車工業会の豊田章男会長は5月13日の記者会見で、日本型雇用維持の難しさを吐露した。トヨタ自動車のトップでもある豊田氏の発言は、日本人の働き方が転機を迎えていることの表れにみえる。

 日本の労働慣行では、経営不振などを理由とした正社員の解雇には、人員削減の必要性や解雇を避けるための努力を十分に行ったかなどを示す必要がある。経営者視点に立てば、経営環境の急変で事業再編が必要になっても迅速に対応できず、国際的な競争力を落とす要因になりかねない。

 ただし、日本企業は終身雇用の廃止を目指しているわけではない。長期間で人材を育成してノウハウを蓄積し、自社に貢献してもらう手法は日本企業の強みとされてきた。人事コンサルタントの秋山輝之氏は「トヨタのような企業ほど、日本型雇用の重要性を理解している」と指摘。必要なのは終身雇用を継続できるような社会的な仕組みだとみる。

 正社員人気

 総務省の労働力調査によると、労働者に占める正社員の割合は平成30年で62.1%まで減ったが、定年退職後の高齢者が契約社員などとして働き続けることが多くなったという要因もある。逆に20~29歳の若い世代では全体の4分の3程度が正社員で、その割合は25年を底として上昇傾向だ。働き手の間でも「安定して働ける正社員になりたい」との要望は根強い。

 企業は経営環境にあわせた柔軟な雇用調整とともに、優秀な働き手を確保する必要がある。一方、働き手は子育てや介護といった人生の節目ごとに自分にあった仕事を求める一方、解雇されにくい安定的な立場で働きたいとも望む。

 企業や働き手の多様な要望は、正社員のような一つのスタイルだけを追及していては実現しない。中央大経済学部の阿部正浩教授は「一つの会社で安定的に働くだけでなく、複数の企業で切れ目なく働くことで得られる安定もある。それを実現しやすい仕組みを社会全体で構築する必要がある」と話している。(小雲規生)

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