かんぽ、総務相発言で方針一転 販売再開先送り 経営判断の迷走露呈
日本郵政グループが10月に予定したかんぽ生命保険の保険商品の販売再開を先送りした。不適切販売の実態調査や顧客対応が道半ばのまま再開しようという姿勢に、監督官庁などから疑問を突きつけられたからだ。経営の迷走ぶりが露呈されたことで、郵政グループに注がれる視線は一層厳しくなっている。(万福博之)
「こんな状況で再開できるんですか」
9月18日、内閣改造で再登板した高市早苗総務相は、総務省の大臣室を訪れた日本郵政グループ4社の社長に対し、こう疑問を投げかけた。口調こそ丁寧だったが、出席者には緊張感がひしひしと伝わってきたという。同11日の就任会見で「強い怒りを覚える」と不適切販売問題を強く批判した高市氏の意向を探りにきた4社長だが、高市氏の発言で販売再開のシナリオは一転し、一気に先送りに傾いていった。
「順番が逆だ」。10月からの販売再開方針の一報を8月末に聞いた愛媛県の50代局員は憤った。なぜ、顧客や現場の不安や不満の解消をそっちのけで「見切り発車」したのか。
郵政グループは、実態調査が一定程度進捗(しんちょく)し、再発防止策や弁護士による「特別調査委員会」の調査と合わせた中間報告を行えば、段階的に再開できるとの青写真を描いた。調査などに十分なめどが立つかも不透明だっただけに、グループ3社の経営会議でも激しいせめぎあいがあったが、自粛が長引くほど株価低迷が長期化することへの不安から、再開を強く希望した日本郵政とかんぽ生命が押し切った。
決定を覆した理由について、日本郵便の横山邦男社長は30日の会見で、「関係各所から時期尚早との意見を真摯(しんし)に受け止めた」と説明した。自粛は当初8月末、次に9月末までと甘い見通しを2度も示して撤回し、今回さらに年内いっぱいまでと大幅に先送りした。
ちくはぐな経営判断はNHKが昨年4月にかんぽ生命の不適切販売を報じた後に、NHKに強い抗議をするなどしたことでも露呈した。本来は報道ではなく、内部に目を向けて不適切販売の実態解明に全力を注ぐべきはずだが、経営陣が問題の重大性を認識できていなかったことの表れだ。
総務省幹部は「要するにトップが外部からの寄せ集まりの会社で、ガバナンス(企業統治)がだめだという典型的な例だ」とはき捨てた。