「法の支配」を社会の行動原理に取り込め
日本の企業に就職すると、職務の説明(ジョブ・ディスクリプション)がない。雇用契約書もない場合が多い。辞令が一枚、渡されるだけである。どういう仕事を遂行すればいいのか、誰にも説明できない。どの現場も、暗黙のルールに満ちていて、それを全員が一様に意識しているわけでもなく、説明もできないからだ。「だんだん慣れてください」と言われるだけ。
欧米の契約文化に慣れたひとが、日本の企業に就職すると、びっくりする。すぐ辞めてしまう場合も多い。
日本の企業が現地法人をつくったり、合弁企業をつくったりすると、最初にぶつかるのは、双方の組織文化がまるで違う、という問題だ。ヨーロッパ、アメリカ、中国、ベトナム、メキシコ……、どこが現地であるかによって、解決は異なる。そして、その社会の背景を、猛烈に勉強しなければだめだ。
日本企業が現地法人をつくると、台湾総督府か朝鮮総督府か、満洲国のようになってしまう。日本ルールと本社の意思決定を、トップダウンで、現地の組織に押しつける。このやり方では、グーグルやアップルのような、世界的な巨大企業を動かすことはできない。
グローバル社会の標準的な行動様式は、「法の支配」である。これは、西欧キリスト教文明が、グローバル社会に残してくれた、置き土産だ。
この貴重な社会資産を、日本社会の行動原理に取り込んでいくこと。これが、これからの100年、日本が世界に飛躍するための土台になる。
(社会学者 橋爪 大三郎)