高論卓説

会社と「つながらない権利」法制化を急げ 休日深夜対応で不眠や健康被害拡大

 便利なデジタルツールが次々とリリースされ、便利な世の中になった。それと同時に、人間は一つずつ小さな自由を奪われていっているのではないかと思う。いつでもどこでもつながりすぎる社会に、いまどんな問題が起こっているのか。

 携帯に着信がなくとも、携帯が鳴っているという錯覚を起こす現象を「幻想振動症候群」という。脳が常に緊張状態を強いられ、自律神経にまで影響を及ぼし不眠を引き起こす。働き方改革といわれて久しいが、今後はさまざまなスタイルの働き方が出てくるだろう。便利なデジタルツールがそのような働き方を可能にしているのは事実だ。

 実際、筆者の会社では5年前からテレワークを導入している。テレワークとは、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことである。空間や時間にしばられる働き方ではないため、自宅で仕事をして構わない。働く場所を限定しないという選択は、どんな地域に住んでいようが新しい可能性であることは間違いない。さらに人口減少が加速する日本において、このような働き方が当たり前になっていくだろう。

 しかし、ここでテレワークには一つ大きなポイントがある。それは、情報通信技術(ICT)をある程度使いこなせなければならないという前提である。同じ空間に身を置かなくてもよいが、仕事を行う前線基地としての役割がICTを中心に設計されている。いつでも好きな時間に、好きな場所で仕事ができるという言葉の裏には、自己を律する責任とICTスキルが大きく問われる時代でもあるのだ。

 実際、知り合いの経営者も「好きな時間に、好きな場所で働ける」といった内容で人材募集をかけたときに、最低限の「報・連・相」ができない人もやってきて、思わぬところに時間をとられたといって嘆いていた。同じ空間をともにしないため、その場ですぐに教えることができない。まだまだテレワークは手探りの状態が続き、どんな場にいても業務を遂行していくためにさまざまなルールが企業側に求められることだろう。

 昨今、周りにいる関係者たちもメールではなくチャットワークを使っている人が多い。チャットワークとは、仕事の関係者とグループを組んで、コミュニケーションをより効率的にするビジネスチャットである。検索機能にもたけており、迷惑フォルダーに入る危険性のあるメール配信とは違って、確実に相手に届くので便利である。

 しかし、ここで冒頭の問題がでてくる。「つながらない権利」である。

 NTTデータ経営研究所が5月、正社員として働く20歳以上の1110人を対象にインターネットを通じて実施。業務時間外の深夜や休日などに緊急性のない電話やメールに週1回以上対応していると回答したのは165人いたという。約15%が緊急性のない事態に対応したことになる。また、別の会社では休日でも対応できたかということが査定項目に入っており、男性社員がほどなくして精神を病んでしまったという報告もある。フランスでは、2017年に業務時間外に会社から仕事の連絡があっても労働者側が拒否できる「つながらない権利」を定めた法律が施行されたそうだ。

 「つながらない権利」は、ICT活用のルールづくりをどう考えるかという問題ではないだろうか。

【プロフィル】芝蘭友

 しらん・ゆう ストーリー戦略コンサルタント。グロービス経営大学院修士課程修了。経営学修士(MBA)。うぃずあっぷを2008年に設立し代表取締役に就任。大阪府出身。著書に『死ぬまでに一度は読みたいビジネス名著280の言葉』(かんき出版)がある。

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