論風
現代貨幣理論(MMT)の誤り 懸念されるインフレとモラルハザード
筆者は給付を全面否定するつもりはない。ただ、給付にはインセンティブを加えた方がいいと考えている。人類史が今日まで発展できたのは、ほかでもなく人々の努力による活力が社会をここまで押し上げてきたからに違いない。だから、いかにインセンティブを社会全体に行き渡らせ、無理なく少しは努力することで給付を獲得する仕組みを作れるかである。単に給付をあてがうことで、社会にぶら下がる性質を蔓延させてはいけない。給付を行うことが、かえって活力活気が社会に生まれるようにしなければいけない。単純給付にはないダイナミズムが起こるような社会全体の枠組みを考え出さなければ、社会活性化の持続可能性はなく将来は明るくない。
インセンティブによる活力は、今後も人類社会の維持発展にとって放棄できない必須のキーコンセプトであり、経済社会を引っ張っていく長期にわたるエンジンだ。MMTやBIの看過できない最大の難点がそこにあり、モラルハザードによって意気消沈した低迷、貧困、不幸な社会へと行き着かせる。
【プロフィル】大和田滝惠
おおわだ・たきよし 上智大学国際関係論博士課程修了。外務省ASEAN委託研究員、通産省NEDOグリーンヘルメット調査報告委員会座長などを歴任。著書に『文明危機の思想基盤』、経済論文に「ヴィジブルな社会への経済政策」など多数。専門は社会哲学。68歳。東京都出身。