ビジネス解読

日本経済を揺るがしかねない「アマゾン・エフェクト」 その脅威

 米インターネット通販大手アマゾン・コムの急成長で、既存の小売店が閉鎖・倒産に追い込まれる「アマゾン・エフェクト(効果)」が日本にも及び始めた。百貨店や総合スーパーが苦境に立たされているだけでなく、ネット通販の普及で価格競争が激しくなって物価が伸び悩み、デフレ脱却を阻む要因の一つにもなっているという。一方、企業のペーパーレス化で青息吐息だった製紙業界は、ネット通販普及に伴う段ボール需要の増加で息を吹き返しつつある。アマゾンは疫病神か、救世主か…。

 ショールーミング

 「競争環境の変化にもう少し早く気づけばよかった」

 総合スーパーと百貨店事業で約3000人の削減を伴う大幅なリストラに踏み切るセブン&アイ・ホールディングス(HD)。井阪隆一社長は10月の記者会見で、ネット通販の普及などで苦境に立たされた悔しさをにじませた。

 ネット通販はスマートフォンやパソコンで気軽に注文でき、低価格を売りにしているため、最近の消費者はネット通販価格を頻繁にチェックしている。小売店では実際の品物を手に取って品質を確認するのみで、ネット通販で買い物をする「ショールーミング」が広がっており、百貨店やスーパーはこうした消費行動の変化に苦しめられた可能性がある。

 傘下のそごう・西武は地方の5店舗を閉鎖、2店舗を縮小し、残すは首都圏を中心とした10店のみとなる。イトーヨーカ堂は33店舗を整理対象とする。

 百貨店業界をめぐっては今年、伊勢丹府中店(東京都府中市)など全国で10店舗超が閉店。閉店数が2桁となるのはリーマン・ショックで景気が減速した平成22年以来、9年ぶりだ。

 米国でネット通販猛威

 ネット通販は宅配業者の人手不足が急成長の足かせになるとの指摘もあるが、ニッセイ基礎研究所の井上智紀主任研究員は「宅配ボックスや(通販の荷物を玄関前などに置く)『置き配』の普及といった受け取り手段が多様化すれば、不在時再配達などの手間が少なくなり、伸びる余地はある」と分析する。

 経済産業省によると、個人向け電子商取引の国内市場は急成長している。モノのネット通販に、ネット経由の旅行などのサービス購入、音楽などのデジタル配信を合わせると、30年の市場規模は約17兆9800億円と22年の2.3倍。消費額全体に占める電子商取引の割合も22年の2.84%から6.22%に高まった。10%を超える米国より低いものの急拡大している。百貨店や総合スーパーの“受難”は今後も続きそうだ。

 ネット通販が既存の小売店を淘汰するアマゾン・エフェクトは、既に米国で本格化している。

 小売り大手シアーズHDや高級百貨店チェーン「バーニーズ・ニューヨーク」のほか、低価格衣料品店を展開するフォーエバー21などの経営破綻(はたん)が相次ぐ。衣料品は試着が必要なため店舗優位とされてきたが、アマゾンも柔軟な返品サービスなどを拡充している。UBS証券は2018~26年に閉鎖が見込まれるのは7万5000店と予測した。

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