近ごろ都に流行るもの

シルクロードを通って…最上紅花 神秘的な魅力を体験 

 「歴史的農作物の復活」(下)

 シルクロードを通って3世紀中に日本へ渡来した紅花(ベニバナ)。十二単や神事など日本文化の彩りに欠かせない染料だが、近代化により普及した化学染料に駆逐され、一度は消えた。戦後、特用作物として唯一復活を実現させたのが山形県だ。昨年11月にリニューアルオープンした東京・南青山の「紅ミュージアム」は、最上紅花を原料に今も伝統製法で化粧紅を製造する伊勢半本店が運営。唇の紅点(さ)し体験が国内外の女性たちを驚かせ、神秘的な紅花の魅力を発信している。(重松明子)

 おちょこのような器の内側で輝く玉虫色は何? 水を含ませた筆でちょんと触れると、一瞬で紅色に変わった。不思議! 唇に乗せると、さらにローズピンクに変化…。

 「私はコーラル系」「それぞれ発色が違うんですね」

 来場者の女性と、お互いの唇を見比べてしまう。紅ミュージアムでの紅点し体験のヒトコマだ。

 江戸後期に日本橋で創業した伊勢半本店の創業以来のロングセラー「小町紅」が試せる。商品は9900円~と高価だが、体験は無料。「その人だけの色を放つ自然な血色感と、100%天然コスメである所に、価値を感じてくださる方が増えてきた」と、同社本紅事業本部の阿部恵美子さん(44)。

 「魔除(よ)けの紅」のお守りの意味もあり、七五三、成人、結婚、出産、還暦祝いなど、女性の人生の節目の記念品として購入されている。

 紅ミュージアムには、紅と化粧の歴史を紹介する展示室もある。浮世絵の美人画など見応えもたっぷり。「時代劇が好き」という歴女(レキジョ)や男性も目立つ。紅を点すシーンが登場する日本の漫画「刀剣乱舞」がSNSで拡散した影響で、中国やフランスなど、海外からの来場者も増えているそうだ。

 小町紅の製法は、創業家の血筋にあたる澤田一郎会長(68)と社員2人の紅職人のみに口伝で伝えられている。「玉虫色になる理由は科学的に解明されておらず、技も絶対に口外できない。メモすら残せません」。紅職人の佐々木宗臣さん(48)が作業を特別に見せてくれた。「いつも仕上がるまでドキドキ。失敗すると、生き生きとした玉虫色の輝きがコガネムシの死骸のようにくすんでしまい、全く売り物にならない」と、分かりやすいたとえで紅作りの繊細さを語る。湿度の高い梅雨時が難しく、逆に乾燥する冬場は発色に優れ、昔は「寒製紅」として特に珍重されていた。生産量は1日20個が限度という。

 現代化粧品を扱うグループ会社「伊勢半」では、主力ブランド「キスミーフェルム」の口紅の売り上げが5年間で倍増するなど好調だが、「原点は紅」として全社員を対象に山形で研修を行っている。

 「紅花にはトゲあって摘むときに痛い。朝露で柔らかくなっている明け方から畑に出ます。研修でお手伝いさせていただき、こんなにも大変なのかと、農家さんへの感謝と歴史への思いが強まった」

 研修を受けた伊勢半開発本部の佐藤瑠衣さん(35)は感慨深げだ。

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング