高論卓説

米中で今も根深い格差 日本は半世紀余り「1億総中流」

 米国は6月に入り、新型コロナウイルスの死者が11万人に達し、感染者数と死者数が国別で最大である。コロナによる死者の比率は、黒人が白人の2.5倍と伝えられ、米国の著しい人種格差が明らかになった。死者比率だけでなく、失業率では5月の全米平均で黒人が16.8%だったのに対し白人は12.4%と人種格差が著しい。5月末にミネアポリスの警官による黒人の暴行死の結果、全米140以上の都市で激しい抗議運動が広がり、いまだに収束が見えず、内外勢力の扇動もあり、米国は人種分断国家の様相を呈している。(杉山仁)

 米国の人種差別は根が深い。1620年に英国からの移住者が新大陸に上陸して以来、有色人種の先住民は人間とは見なされず、その後1890年まで270年の間、民族浄化の対象となり、白人に虐殺された。1000万人いた先住民は白人によって950万人が無差別に殺され、50万人まで激減した。米国には黒人差別以前に、先住民大虐殺の歴史がある。

 人種差別と並んで過酷なのは所得格差である。新自由主義の名の下に富裕層が強欲な利己主義を発揮した結果、米国の最上位0.1%は今日、全米の総資産の20%を所有している一方、労働者の実質賃金はこの40年間、変わっていない。

 所得階層別の貯蓄率を調べると、全米の下位90%の世帯は1990年代以降、負債が増加する一方、同期間、上位10%の世帯は所得の5%以上を貯蓄できている(ドイツ銀行調査)。

 米国の学生ローンも所得格差の象徴である。ローン残高は165兆円、借入人総数は約5000万人で、1人当たりの借入残高は330万円に達している。成人の4人に1人が学生ローンを借りており、総残高は自動車ローン残高(150兆円)およびクレジットカードローン残高(100兆円)を上回り、所得格差を固定化している。

 米国は建国以前から400年続いている有色人迫害と著しい所得格差の国である。

 人種差別と所得格差は米国だけではない。中国は国内1100万人のウイグル人の漢民族への強制同化を目的として、現在100万人以上のウイグル人を強制収容所に拘束し、洗脳教育を続けている。これは現代の米国の人種差別以上にはるかに過酷である。

 中国の李克強首相は5月に、全国人民代表大会の記者会見で、2019年、中国人の平均年収は約45万円だったと公表したが、同時に中国には年収約18万円の人が6億人もいると明かした。14億の国民の4割以上が年収18万円の一方、アリババ創業者クラスのような一握りの大金持ちや共産党幹部が、全国民の平均年収を底上げしている。また中国には所得と生活上の差別的待遇を一生受け続ける農民戸籍の国民が9億人いる。著しい格差社会である。

 一方、日本の所得格差と社会格差意識はどうであろうか。厚生労働省が2017年に実施した所得格差調査によると、格差の指標であるジニ係数では前回14年実施時よりも所得格差は改善されている。

 また大手マスメディアが本年実施した世論調査によると、自分の生活水準を上中下でそれぞれ3段階に分けた計9段階の中から選んでもらった結果、「中の上」「中の中」「中の下」を合わせた中流が72%に達した。1964年の前回調査では中流が74%であった。国民の大多数が中流を自認する意識は半世紀余りを経ても大きく変わっていない。

 米中という格差大国に比べ、社会格差、所得格差が悪化していないという点で、日本は世界から仰ぎ見られるソフトパワーを有しているのである。

【プロフィル】杉山仁

 すぎやま・ひとし JPリサーチ&コンサルティング顧問。1972年一橋大学卒、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。米英勤務11年。海外M&Aと買収後経営に精通する。経済産業省の「我が国企業による海外M&A研究会報告書」作成に有識者委員として参加。著書に「日本一わかりやすい海外M&A入門」のほか、M&Aと買収後経営に関する論文執筆や講演多数。

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