宿泊業界“新たな旅”手探り リゾート地で“仕事”/近場の魅力発信
新型コロナウイルスの影響でダメージを受けた宿泊業界が、新たな旅の形を模索している。キーワードとなるのは「仕事との融合」と「近場の旅行」。3密を避けつつ、いかに「旅行欲」を喚起するかが課題となる。
ビジネス客に注目
「劇的に回復しているわけではない」。5月下旬に緊急事態宣言が全国で解除されたものの、宿泊業界の関係者の見方は一致している。今月19日に県境をまたぐ移動の自粛が全面解除になったとしても「自由に旅行」という雰囲気の醸成はまだまだ時間がかかりそうだ。
そんな中、ビジネス客の動向に注目が集まる。全国にチェーン展開するワシントンホテル(名古屋市)の担当者は「テレワークは一部残るだろう。出張需要も変わる可能性がある」と分析。ビジネス客向けの日帰りプランにも力を入れる。
リゾート地でテレワークしながら余暇を楽しむ「ワーケーション」も注目される。国内外で温泉旅館やホテルを手掛ける星野リゾート(長野県軽井沢町)は、通信環境やビジネス機器を取りそろえた沖縄県・竹富島の施設で提供するプランを来年1月まで延長する。
安全安心を優先
旅館やホテルの業界団体が5月に示したガイドラインは送迎、チェックイン、客室、大浴場、食事-と多岐にわたる。旅行ジャーナリスト村田和子さんは「リスクはゼロにならない中、宿がどう対応すべきか細かい指針が書いてある」と評価。安心感を得るには衛生面のアピールが必須だ。
難しいのは、対策と、おもてなしのバランス。旅館や高級ホテルの接客は密接しがちだ。「客も以前の感覚だとがっかりするかもしれない。今は安全安心が優先と理解して出掛ける必要がある」
ビジネス利用と併せ、当初の柱になる「近場の旅」。「おんせん県」を掲げる大分県は、宿泊施設の組合と連携し、感染対策と県民の利用の両方を促す取り組みを打ち出した。県と組合が作成した対策リストに取り組んだ宿を利用する県民に、1人1泊5000円を助成。今月1日に配布を始めたクーポンは、その日のうちに予定枚数に達した。
星野リゾートも、近場の観光を「マイクロツーリズム」と名付け、提唱する。従来、遠方や海外の客を想定し、地域らしさを押し出してきたが「全く同じことをしても地元の人には受け入れられない」と広報担当者。本拠地軽井沢はかつて夏場以外は地元客が多く、アワビや伊勢エビなど「地の物」でない食材を出していた時代もあったという。近隣の客にどんなくつろぎを提供できるか模索が続く。
「遠くに行くことだけが旅ではない」と村田さん。子供の教育や、健康がテーマであれば、必ずしも距離は関係ない。意外と知らない、近場の魅力の再発見にもつながるとの考えだ。「宿も悩んでいるだろうが、旅行者もアイデアを出し合えば、面白いものができるはず」と指摘した。