未来への羅針盤

会話をスマホに表示するマスク

 「ドーナッツロボティクス」が開発

 マスクを着け、2メートルほどのソーシャルディスタンスを保ちながらの会話。聞き取りにくく、トラブルを招きそうになったことはないだろうか。こんな問題を、ロボットベンチャーの「ドーナッツロボティクス」(東京都港区)が解決しようとしている。

 同社は音声を認識するマイクを搭載した「スマートマスク」を開発した。市販のマスクの上を覆うようにして装着するものだが、通信機能も備わっており、話した内容が相手のスマートフォンの画面に表示される。

 10メートル離れた人にも声を文字にして届けることができるため、診察の際に患者と一定の距離を取りたい医療現場などでの使用を想定。「c-mask」という商品名で、クラウドファンディングサイトのマクアケを通じて、7月上旬にも予約受け付けを始める。価格は3980円(税別)。今秋にも販売を開始する予定だ。

 もともと、翻訳機能付きの接客ロボット「シナモン」を手掛けてきた。2017年には東京・羽田空港で実施された「ロボット実験プロジェクト」にも参加。シナモンは外国人客への案内業務に一役買ってきた。

 今回開発したスマートマスクは、このシナモンで培われた音声認識技術を転用したものだ。本来なら、外国人旅行客の増加を見据えて、春先からシナモンを量産する計画だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で頓挫。「このままでは事業の継続ができなくなる」と追い込まれた小野泰助社長が生み出した起死回生のアイデアだった。

 約20人の従業員には、「自社の技術を生かして、困っている人を助けられるようなものを作ろう。持てる力を全て出し切ろう」と協力を呼び掛け、スマートマスクの開発に着手した。5月には日本クラウドキャピタル(東京都品川区)のクラウドファンディング型株式投資サービス「ファンディーノ」を通じて、複数の個人投資家から2800万円を調達。賛同者からの資金を開発費に充て完成にこぎ着けた。

 機能性マスクの製作は、多くの中小企業やベンチャー企業が参入しているが、ドーナッツロボティクスは通信機能などを持たせて差別化。小野社長は「わが社なりにマスクを再定義できた」と胸を張る。

 本業のロボット開発は、コスト削減を進め2年ほどかけて立て直す方針。同社は事業のピボット(方向転換)を好機ととらえ、飛躍を目指す。(松村信仁)

【会社概要】ドーナッツロボティクス

 ▽代表=小野泰助氏

 ▽本社=東京都港区南青山 2-6-7

 ▽設立=2016年1月4日

 ▽資本金=8510万円

 ▽売上高=非公表

 ▽従業員数=約20人

 ▽主な事業=コミュニケーションロボットの開発など

 ▽ミッション=社会課題をロボットの技術で解決する

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