高論卓説

リモートで“軋轢”が多発 ストレスを与えない対話とは?

 あらかじめ求める説明手法の確認を

 対面でのコミュニケーションが格段に減って、メールや電話、オンライン会議システムなど、リモートでの対話や会議に取って代わった。リモートでの対話にいらいらする、ストレスがたまるという相談を受けることが多くなった。上司からみると、部下の説明が要領を得ない、必要とする情報が提供されない、説明に時間がかかるというわけだ。部下とすれば、良かれと思って、順序よく丁寧に話していると、遮られて、「結論は何か」と聞かれる。結論を先に話すと、「話を飛躍させるな」と言われる。リモートの状況になって、こうした軋轢(あつれき)が多発している。

 対面の対話時にも、実は同じ問題が生じていたに違いない。しかし、対面の場合には、相手が忙しがっているのか、落ち着いてじっくりと聞きたがっているのか、相手の表情や身の回りの状況などを踏まえて、無意識のうちに察知していたことが多い。対面でのコミュニケーションで得られていた、こうした周辺情報が得られなくなったので、相手を引き付ける確度が軒並み低下してしまっている。

 だとすれば、リモートでの対話でも、それを補うスキルを発揮すればよい。スキルといっても、難しいものでなく、すぐに実施できるものだ。一番簡単な方法は、リモートで説明する際に、経過手法で説明するか、分解手法で説明するかを選択することだ。説明する相手が「順を追って話してくれ」とよく言っている人であれば、時系列に経過をたどって説明すると、相手をいらいらさせない。相手が「かいつまんで話してくれ」と日頃から口に出していると思ったら、話したい内容を分解して、「AとBとCを伝えます」という説明の仕方をする。

 さらには、逆算手法、積み上げ手法のどちらかで説明する方法もある。相手が「だから、結論は何なのだ」と口癖のように言う人はよくいる。そのような人には、結論にあたる将来地点の姿を説明して、そこから逆算して説明する。逆のタイプの人もいる。「説明を飛躍させないで、足元をみて話してほしい」という人に対しては、現状の延長線上をたどって、次にどうなるかという説明の仕方をすることがお勧めだ。

 「何が重要なのですか」「急ぎなのはどれですか」「最も貢献できるものは何ですか」ということを、相手が言っているなと思ったら、重要度、緊急度、貢献度に着目してそれぞれ説明する。ビジネススキル演習をしていると、説明を求める切り口はこれらに集約されるので、ここで挙げた手法のいずれかを繰り出すと、相手にストレスを与えずに、コミュニケーションをしやすくなる。

 このように申し上げると、「特にリモートの状況なので、相手がどの説明手法を求めているか見当がつかない」という声を聞く。もし分からなければ、そして、これまで説明時に軋轢が生じたことのある相手だったら、相手に聞いてしまえばよい。「本日は経過をたどって、順に説明したいと思いますが、よろしいでしょうか」「結論を先に申し上げて、そこから逆算してお伝えしようと思いますが、どうでしょうか」と一言添える方法だ。

 リモートだからコミュニケーションが首尾よく進まなくてもしょうがないと諦める必要はない。リモートでも円滑に進められるかどうかは、“新しい生活様式”の中でも、パフォーマンスを発揮し続けるためにとても重要だ。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。

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