講師のホンネ

企業研修講師が気づく「弱音がくれたこと」

 私はコーチという仕事をしている。バスケットボールやラグビーのコーチではない。働くオトナが「何を大事に、本当はどうなりたいのか」を対話によって探る場を提供する仕事だ。対話の主人公はクライアントなので、「私:相手=1:9」の割合でもっぱら相手の話を聞き、問いで本音を引き出す。(小林久美)

 そのせいか、タクシー運転手や焼き鳥屋の主人が自分の深い人生話を、こちらが尋ねもしないのにはじめてくることがある。いつぞやは、ジムのジェットバスで「あのね、私が天国に行ったら、絶対お礼を言いたい方がいるのよ」と、突然見知らぬ高齢の女性に声をかけられ戸惑いつつ20分ほど話を聴いたこともあった。

 先日、そんな私があるオンラインセミナーでコーチングをしていただくという機会に恵まれた。1月から勉強してきた仲間たちの前で、互いのコーチングの腕を磨くための練習である。「久美さんは今日はどんなことについて話したいですか」とのコーチの問いに「漠然とした不安について」と難しいお題を出してしまったのだが、丁寧に問いかけられ話しているうちに、「しっかり対面で人とつながれる機会が新型コロナウイルスによってもぎとられてしまった。それがとても悲しい」と気づけば涙目で吐露している自分がいた。

 3月頃からの外出自粛や緊急事態宣言により、人と目と目を合わせ、その場の空気をしっかり共有する機会がなくなっていたことをこれほど自分は寂しく思っていたのかと驚いた。そしてそれを口にしたことで気持ちがとてもスッキリした。

 その後、コーチから未来に目をむける問いをされたときには「いつか孫ができて、『教科書にあるコロナ時代って何』と聞かれることがあったら、どんな風に自分は生き抜いたのか語りたい」と強い言葉を発している自分がいた。

 私たちオトナは、子供のように感情をあらわにするのは良くないといわれて日々踏ん張っている。でも、少し勇気を出して自分の弱さを見せることが、結果的に自分を鍛えることにつながるのではないか。もしかしたら、ジェットバスの女性も何か思うところがあって、知らない誰かに本音を聞いてもらいたかったのかもしれない。

【プロフィル】小林久美

 こばやし・くみ 1965年、京都生まれ。15年に及ぶ米国生活の後帰国。ビズ・コミュニケーションズの人事部長として社員の意識改革に着手する中でコーチングに出合いプロコーチを目指す。現在は経営層のコーチのほか企業研修講師として活動中。国際コーチング連盟・プロフェッショナル認定コーチ。

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