高論卓説

“リベンジ旅行”できる台湾、できぬ日本 まずは安心と安全を

 安全・安心担保なく「Go To」に違和感

 今、台湾で流行しているのが「報復性旅行」だ。報復とは恐ろしげではあるが、日本語にすると「リベンジ旅行」。今まで新型コロナウイルス問題で身動きが取れなかったため、旅行ロスの気持ちが高まっていたので、解禁となったとたんに、まるで何かに仕返しをするかのように観光地へ大挙して出かける現象のことを指している。

 「リベンジ旅行」ブームで台湾の観光地は人でごったがえしている。特に人気なのは、台北からある程度距離が離れた場所。例えば、離島の澎湖諸島や、台東・花蓮の東海岸などで、リベンジというからには、それなりにしっかりと旅行気分を味わえるところが好まれるようである。また、海や山など都会にはない大自然が体験できることや四つ星ホテルや五つ星ホテルなどでお金を多く使うことをいとわない傾向も報告されている。

 あまりにも一部に観光客が集中しているので、観光政策をつかさどっている交通部の林佳龍部長が「皆さんが旅行に出かけているのはとてもうれしいことだが、なるべく1カ所に集中しないように、他の台湾中部や北部も選択肢に入れてください。休日以外の旅行も考えてみてほしい」と呼び掛けるに至った。

 ここで思い起こすのは、日本の「Go To トラベル」だ。先週の4連休で観光地がどれほど潤ったかについては、まだ正確なところはつかめていない。ただ、なんとなく後味の悪さが残り、台湾のようなスッキリ感がないのが残念だ。

 筆者は今月2日に扶桑社新書から出版した「なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか」の中で、台湾のコロナ対策について詳しく検討した。そこで得られた結論は、アフターコロナの時代を迎えるにあたって、「安心」がどれだけ社会に広がっているのかが重要であり、まずはコロナを抑え込み、経済は次のステップということで明確に優先順位をつけている台湾の対策が非常に合理的だったということだ。

 その正しさを証明するように、台湾では3カ月以上にわたってほとんど市中感染が起きていない。そして、国内観光の振興に乗り出し、「リベンジ旅行」のあまりの盛り上がりが話題になっているわけである。

 一方、日本は、なお1日の感染者数が1000人に近づき、緊急事態宣言以前に逆戻りしかねない状況に陥っている。医療体制の整備のおかげか、死者・重傷者は前より少ないが、感染リスクはむしろ高まっている。この中で、気持ちよく、思う存分に旅行を楽しんでもらおうということ自体、無理がある。

 感染者をゼロにしろ、ということではない。だが、1日に全国で100人程度に抑えなければ、誰も喜んで旅に出かけられないだろう。10人程度の感染者の増減に注目しても意味はないが、これが100人単位の増加となると、重症者が多かろうが少なかろうが放置はできないというのが、専門家も政府も共通した見解だ。

 なんといっても、コロナは保健所への届け出義務がある指定感染症なのである。感染すれば基本は隔離されるのだ。

 消費は、無理やりさせるものではない。望んでするものである。観光業界の苦しさはもちろん分かるが、コロナにおびえながらお金を使え、といわんばかりの政府の対応は、正直いって、私も含めて多くの国民が違和感を覚えているはずだ。

 日本に「リベンジ旅行」が可能となる日が早く訪れてほしいと強く願う。だが、その前にコロナの抑え込みを果たし、まずは安心と安全を確保。旅行はそれからでいい。

【プロフィル】野嶋剛

 のじま・つよし ジャーナリスト。大東文化大学特任教授。朝日新聞で中華圏・アジア報道に長年従事し、シンガポール支局長、台北支局長、中文網編集長などを務め、2016年からフリーに。『ふたつの故宮博物院』『銀輪の巨人 GIANT』『台湾とは何か』『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』など著書多数。

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング