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危機対応には当事者意識持ち法務整備を

 企業法務は日常的にリスクを予測してリスクヘッジ策を提案するとともに、訴訟などが必要になった場合には対応策を検討するなど、平時から「何かあった場合の備え」を行う。法務部門を持たない中小企業は、経営者自らが弁護士や外部の専門家の力を借りながら、必要な法務整備をしておくことが肝要だ。経営者は危機時において、特に強いリーダーシップが求められる。その指導力を最大限に発揮するためには、企業法務を外部の専門家に丸投げするのではなく、平時から当事者意識を持ってほしい。(となりの法律事務所 パートナー弁護士・沖崎遼)

 2019年末、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスは短期間で世界中に拡散し、わが国でも事業者に対し休業要請が出されるとともに、国民に外出自粛が求められた。20年2月初旬には日本国内で感染者が発生しており、海外でのロックダウン(都市封鎖)の状況などを正確に把握していれば、備えができたはずだ。しかし、4月7日に緊急事態宣言が発令されるまでの対応は鈍く、筆者には「従業員の勤務を減らしたり、人員をカットしたりする方法は」といった相談があった。当事者意識を持ち、リスクを正確に分析していればと思う。

 また、別の相談では「販売した商品がコロナ禍により予定した日までに入荷できなくなり、買い主からその引き渡しを求められた場合の対応」で、契約書が作成されておらず、「不可抗力条項」などの危機的状況における取り決めが全くなされていなかったケースもあった。これだと、債務不履行責任を負うリスクが大きくなり、契約におけるリスク管理ができていないと言わざるを得ない。

 国内の感染者数は東京を中心として増加の一途をたどっている。行政の対応も先行きは不透明だ。一方、九州を中心とした大規模な豪雨災害が発生しており、今年に入ってから日本列島で小規模地震も断続的に起こっている。首都直下型地震をはじめとした大地震が来るのも遠い将来の話ではないとされる。日本は自然災害が頻発する国であり、いつ危機的状況に陥ってもおかしくはない。

 コロナ禍では新たに生まれた社会課題に対して在宅勤務、リモートワークや時差出勤など既存の概念を見直すことが必要となり、それに合わせた適切かつ迅速な対応力も求められている。経営者は、危機下において発生するリスクを見据えた強靱(きょうじん)な法務整備を押さえておくべきだ。この連載では、筆者の経験や知見をもとに、中小企業を中心とした企業法務の目線から解説する。

【プロフィル】沖崎遼

 おきざき・りょう 北大法卒、北大法科大学院修了。2012年12月弁護士登録。横浜の弁護士事務所を経て18年1月から現職(第二東京弁護士会)。予防法務に力を注ぐほか、中小企業法務を中心に利益の最大化に役立つサービスをパッケージ化して提供。対処法務やビジネスの仕組みに対しての提案も行う。33歳。北海道出身。

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