金融

東京は香港に代わるアジアの金融ハブになれる 英専門家が語る理由

 中国が6月30日、「香港国家安全法」を導入したことで、香港は今後、地域の金融センターとしての地位を失い、東京がその代わりとなるチャンスが出てきたー。こんな見解を、1980年代から日本経済の分析を続ける英国出身の投資戦略コンサルタント、ピーター・タスカ氏(アーカス・リサーチ代表)が英文ニュース・オピニオンサイト「JAPAN Forward」への寄稿の中で明らかにした。

 それによると、中国が同法を導入したことで、情勢は一変。香港は、「突如として中国の一部になった」。中国は、1997年に英国が香港を中国に返還した際、「一国二制度」を50年間は維持するという英中両国間の合意に反し「あからさまな権力の奪取」に出た。その結果、英国は香港総人口の約4割に当たる市民300万人に対して英国への移住と市民権獲得への道を与え、米国は香港貿易への優遇措置を取り消す意向だ。

 香港が拠点で中国の取引相手が多いHSBCのような銀行や、親中派の富豪たちは何があろうと香港にとどまる。だが、香港の地域の金融ハブとしての機能はなくなり、「衰退は加速する」との見通しを示した。

 そのうえで、香港の代替地として、遠いオーストラリアや、チャイナリスクがあり国際的孤立を強いられる台湾は向かないと指摘。距離的にも近く、注目されているシンガポールについては、北東アジアをカバーするには理想的な位置にはないとし、ロンドンとニューヨークの時差の間にすっぽり収まる東京は、香港の機能を継ぐ最有力候補地だと言及した。

 さらに、英国のZ/Yenグループと中国開発グループがまとめた「世界金融センター指標」によると、2020年の競争力で、東京はニューヨーク、ロンドンに次ぐ3位で、上海、シンガポール、香港よりも上位に位置する。

 日本の利益になるのか

 一方で、タスカ氏は、日本が東京を国際金融センター化することを望むかどうかは別の問題だと指摘。過去15年間、議論されながら実現できなかった最大の障壁として、日本国民を味方につけることの難しさにあるとの見方を示した。

 具体例として、格差が拡大する問題を挙げ、「日本人は国民の一部がホームレスになっている時代に、なぜ一部の高給取りの外国人が相続税を免除され、キャピタルゲイン(株式などの資産価値の変動によって得られる利益)の特別低税率の恩恵を受けるのかと、疑問に思うだろう」と指摘した。さらには、金融スキャンダルが発覚する度に、一般の人たちは「日本が国際金融取引からいったい何を得るのかと疑問に持つはずだ」と述べた。

 同氏はそれでも、ダイナミックな金融産業が多くの高賃金の雇用を生み出し、税収の増加に貢献する」と力説し、「地域の金融ハブになることは、東アジアにおける日本の影響力を拡大することにつながり、多くの友好的な関係を築くことができる。いま形成されつつある(米中の)新冷戦という国際情勢下において、孤立は避けるべきだ。同盟関係は可能な限り増やすべきである」と強調した。

 そのうえで、東京の国際金融センター化には、「主要省庁と有力な政治指導者を巻き込んだ『オールジャパン』の取り組みだけが、それを実現できるだろう」と結論づけた。

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