テクノロジー

決壊しない堤防は可能だ インプラント工法の実践を

 開発者・北村精男氏に聞く

 今回の九州豪雨にみられるように温暖化がもたらす気候変動による台風や豪雨災害の激甚化、南海トラフ地震で想定される大津波被害を避けるため、避難対策とともに堤防強化の必要性が指摘されている。実際、平成23年の東日本大震災では東北沿岸部の堤防・防潮堤が壊滅的な被害を受け、堤防強化が図られている。昨年の台風19号では河川堤防が全国で140カ所にわたり決壊。この状況を受け、国土交通省は現在、有識者会議で河川堤防の強化策を検討している。

 こうした中、東北の堤防強化に用いられ、河川堤防の強化策においても昨年来、国会で質問が出され注目された新技術に、「インプラント工法」がある。鋼管杭や鋼矢板を壁状に地中に打ち込む「決壊しない堤防」をつくる工法を開発したのは高知市の技研製作所だ。社長の北村精男(あきお)氏(79)は5月、堤防強化策について政策提言する著書「国土崩壊~『土堤原則』の大罪」(幻冬舎)を出版した。同氏が主張する堤防強化策について聞いた。(聞き手 北村理)

 --日本で水災害が起きるたびに堤防が決壊し、人命や財産が失われ続けているのは、「堤防を土でつくることに固執しているのが大きな原因だ」と著作で主張していますね。

 北村精男(以下、北村) 日本ではそもそも河川管理の法令で「堤防は土を盛ってつくる」と決めつけている。だから、何度堤防が壊れ、人命財産が失われても、土の堤防をつくり続けている。確かに堤防が古来土でつくられてきたのは万国共通だ。どこの国でも長大な河川に沿って堤防をつくり、破れたら修復するには土が素材として利用しやすいからだ。

 しかし、海外ではインプラント工法の施工事例は多い。ドイツや米国などではインプラント工法で河川堤防の強化工事が行われている。最近では、水害大国であるオランダのアムステルダム市の運河護岸改修工事の新技術コンペで世界の16事業者のなかで最高得点を得て、来年から実証施工を行うことも決まっている。海外では気候変動に対応し、河川堤防強化にインプラント工法を用いることに非常に意欲的だ。

 --日本でも、東日本大震災以降、津波で壊滅状態となった東北の堤防の復旧工事のほか、太平洋沿岸部の自治体では南海トラフ地震の津波に備え堤防・防潮堤の強化工事にインプラント工法を採用している。

 北村 海岸堤防でインプラント工法が用いられ出したのは、東日本大震災の被災地、岩手県山田町の織笠川河口で行われていた水門工事で、工事現場を取り囲んでいた仮設の鋼矢板の二重壁が津波の直撃にびくともしなかったのが大きなきっかけとなった。現場周囲の従来工法の堤防が破壊されていただけに、それとの対比でインプラント工法の強さが際立った。そして大震災の翌年、南海トラフ地震に備えるために行われた高知県春野海岸の堤防強化工事でインプラント工法が採用された。国交省の事業としては画期的ではある。しかし、国交省所管の河川堤防では「土堤原則」を理由にインプラント工法は採用されていない。

 --現在、国交省が検討している河川堤防の強化技術の検討会でも、インプラント工法は、土の堤防を強化する「一部自立型」技術のカテゴリーで検討の対象となっている。

 北村 本来、インプラント工法による堤防は、それだけで「決壊しない堤防」の役割を果たせるものだ。一部自立型ではなく完全自立型技術だ。このことはこれまでインプラント工法を開発してから30年以上にわたる工事データの蓄積と国際学会(国際圧入学会)でも学術的に客観的な検証がなされてきた。そしてその成果はインプラント工法に反映され、年々技術の精度は向上している。

 --国交省の検討会ではいくつかの疑問が出されている。一つは、鋼矢板や鋼管杭の耐久性の問題だ。検討会では鋼材は50年、コンクリートは100年、土は劣化しにくいと評価している。

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