廃棄された葉を使い「本わさび茶」開発 ワサビ県・長野の面目躍如
ワサビといえば、あのツーンとくる辛みが、すしや刺し身などと相性のよい薬味として知られる。だが、お茶と聞いてピンとくる方がどれほどいようか。黒姫和漢薬研究所(長野県信濃町)と松本大学(松本市)などは、ほとんどが廃棄処分となっていたワサビの葉を活用した「本わさび茶」を開発し、販売に乗り出した。ほかのお茶では味わえない言い知れぬ香りと滋味深さとを満喫できる。長野県はワサビの生産量が全国一を誇る「ワサビ県」で、面目躍如の商品がここに誕生した。一服いかがですか。(松本浩史)
まろやかな風味
透明のティーカップに注がれた本わさび茶は、透き通った黄金色をしている。そこから立つ香りに鼻孔をくすぐられると、とてもリラックスした心持ちになる。口中に含める。幾つもの成分が混然一体となって重層的な味わいに仕上がっているのが分かる。苦味や渋味はなく、とてもまろやかな風味だ。
研究所社長の狩野土(はかる)さんは「サッとお湯を通すだけでは味わいを楽しめません」という。テトラティーパックの入ったグラスに200ミリリットルくらいのお湯を注ぐ。このとき「少しずつ入れて茶葉に満遍なくお湯を行き渡らせる」。そのまま約3分。成分を無駄にすることがないよう、パックを引き上げるときも、ゆっくりと一滴一滴の雫を丁寧に落とし切る。
開発されたお茶は、緑茶と比較すると、うまみ成分であるグルタミン酸が約2・5倍、リラックス成分であるGABA(ギャバ)も約3・8倍含まれているという。腸内環境改善のほか、口臭や歯周病などの予防効果も期待され、狩野さんは今後、きちんと実証していきたいと考えている。
生産量全国1位
狩野さんは平成30年、東京都内で開かれた農作物の展示会で、わさび漬けなどを扱う「あずみ野食品」(安曇野市)の男性社員から、「ワサビの葉を使って何か商品ができないか」と持ち掛けられた。その1カ月後には、松本大人間健康学部の矢内和博准教授を交えて話し合い、「お茶」を目指すことになり、昨年1月から取り組みが本格化した。
長野県はワサビの生産量が全国一で、農林水産省が取りまとめた30年の資料によれば、水ワサビと畑ワサビの生産量は計801・7トン。2位の静岡県の468・6トンを大きく引き離している。長野は「ワサビ県」なのである。だがワサビの葉は、漬物などに用いられている程度で、多くは廃棄されているのが実情だった。
焙煎の仕方を模索
ワサビの葉は、「大王わさび農場」(同市)が栽培し、別の連携企業が乾燥などの一次加工を施したたものを使う。研究所が担う作業は焙煎だ。
最善の焙煎方法を見つけるため、模索を繰り返した。葉についている雑菌を死滅させつつ、グルタミン酸などの成分を多く残すためだ。焙じる温度と時間、それに合わせた葉の刻み方などを変え、納得のいく焙煎にたどりつくまで半年ほど費やしたという。
狩野さんは「新しい商品ができたことは率直にうれしい。大学やほかの企業と連携して取り組んだ経験はなかったので、そうした可能性も1つできたかなと思っている」と話す。
テトラティーパックは1袋2・5グラム。5袋入りで1個500円(税別)。大王わさび農場や高速道路のサービスエリア、JR長野駅売店などで購入できる。