アベノミクスの黄昏 消費減税解散にくすぶる臆測…ちらつく“増税の影”
成長戦略は「地方創生」「一億総活躍社会」など看板を次々と掛け替えて目新しさをアピールしたが、名目国内総生産(GDP)600兆円をはじめ政策目標の未達が目立つ。少子高齢化による人口減や東京一極集中による地方経済の疲弊、デジタル化の遅れといったこの国の宿痾(しゅくあ)を乗り越えられないまま、次の景気後退の波に飲み込まれた。
欧州ではコロナ減税
コロナ禍による戦後最大の経済危機を乗り越えるため、政府は事業規模230兆円超という空前の補正予算を編成。景気が底を打つ“谷”は緊急事態宣言が解除された5月だったとの見方もある。ただ解除後の感染再拡大でまた下押しされるのは避けられず、回復の流れが続くかは不透明だ。
総務省が発表した6月の家計調査(2人以上世帯)は1世帯当たりの消費支出が27万3699円で、物価変動を除いた実質で前年同月比1.2%減だった。過去最悪の減少幅を記録した5月(16.2%減)に比べ改善したとはいえ、依然として低水準だ。感染拡大を防ぐため人の移動を抑制せざるを得ない現状では、消費のV字回復は難しい。
そこで自民党内で取り沙汰されるのが、景気刺激に向けた時限的な消費税減税だ。
英国やドイツなどは、コロナ禍で既に日本の消費税に相当する付加価値税の減税に踏み切った。26年11月の衆院解散では消費税率10%への増税を先送りするか否かが総選挙の大義名分となった経緯があり、景気後退期に引き上げてしまった税率を下げるなら、十分な口実になるというわけだ。
ただ、安倍首相は月刊誌「中央公論」9月号のインタビューで消費税減税論には否定的な考えを表明している。また、英国はリーマン・ショック直後の2008(平成20)年末に付加価値税を時限的に引き下げたが、10年1月に元の水準に戻し、翌年にはさらに増税している。仮に日本で減税が実現したとしても、補正予算を含むコロナ対策の莫大(ばくだい)な財政支出を回収するため終息後に東日本大震災の復興増税のような増税とセットになる可能性がある。
麻生太郎財務相は「財政を放漫なまま置いておくわけにはいかない。将来世代への責任を考え、持続性を確保する必要がある」と指摘する。ポストアベノミクスの経済政策は既に増税の影がちらついている。(田辺裕晶)