高論卓説

コロナ禍で医療従事者への暴力横行 要因は基礎知識の欠如に

 世界保健機関(WHO)が3月に新型コロナウイルスの感染拡大について「パンデミック(世界的大流行)」を宣言してからさらに拡大を続けている。WHOによると8月30日時点で世界で感染者数は2495万人、死者数は84万人に上り、米国、ブラジル、インド、南アフリカでは、毎日1万人以上の新規感染者が報告されているという。(松崎隆司)

 こうした中でスイス・ジュネーブに本部を持ち、紛争地域で医療活動を行う赤十字国際委員会(ICRC)は8月19日の世界人道デーで「パンデミックが宣言されて以降6カ月で、医療従事者、患者、医療インフラに対する暴力行為や嫌がらせ、誹謗(ひぼう)中傷は把握しているだけで600件以上」と発表した。

 ICRCは2月1日から7月31日までにアフリカや南北アメリカ、アジア、中近東など40カ国の報道やソーシャルメディアの情報を基に実態を調査。その結果、611件に上る暴行や嫌がらせ、誹謗中傷があったという。

 内訳をみると、暴行が20%以上、不安から生じた差別が15%、言葉による攻撃や脅威が15%を占めていたという。しかも、ICRCが把握しているよりも多くの攻撃が行われていると考えられるという。

 その対象は全体の67%が医療従事者で、22.5%が負傷者や病人(感染を疑われた患者も含む)、5%が避難民や難民に向けられたものだった。

 4月から5月にかけて起こった事件の一部を見てみると、アフガニスタンでは亡くなった患者の親族と医療従事者が殴り合ったことが原因で主要な隔離センターが半日間閉鎖。バングラデシュでは陽性判定を受けた医師の自宅にレンガが投げ込まれた。中央アフリカでは遺体を引き取れないことに腹を立てた複数の親族が暴行。コロンビアではコロナ検査をするために町に入った救急車を住民が妨害し、非公開のカルテなどを盗み見た。パキスタンでは遺族が病院に乱入、医師に暴力を振るったほか、危険区域に侵入した。フィリピンでは医療従事者とその息子たちが近隣住民から嫌がらせや差別を受け、電気を止められた末に家を追い出されたという。

 ICRC本部の保険部門を統括するエスペランサ・マルチネス医師は医療従事者や患者に対する暴力行為の理由について「感染の恐れと感染症に関する基礎知識の欠如」を上げ、「拡大原因や感染を仕方、予防について正しい情報を発信することが何よりも重要」であると語っている。

 これは対岸の火事ではない。この調査の対象にはなっていないが、日本でもこうした問題は多発している。法務省には2月から7月にかけてコロナ関連の訴えが1400件、厚生労働省には8月3日から26日までに医療関係者に対する差別偏見に関する訴えが162件寄せられている。

 「医療従事者の子供が差別されたり、SNS(会員制交流サイト)で誹謗中傷を受けるといった被害が出ている」(厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部広報担当者)

 日本は紛争地域と事情は異なるものの、情報過多が混乱を招き、何が本当に正しい情報なのか分からなくなっている。新型コロナの2次、3次被害を出さないためにも政府は正しい情報提供に全力を挙げてもらいたい。

【プロフィル】松崎隆司

 まつざき・たかし 経済ジャーナリスト。中大法卒。経済専門誌の記者、編集長などを経てフリーに。日本ペンクラブ会員。著書は『東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人』など多数。埼玉県出身。 

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