高論卓説

ばんえい競馬は「世界遺産」 IR展開も夢でない黄金コンテンツ

 人と馬の歴史は長い。乗用、運搬、農耕、あるいは軍馬として、馬は5000年以上人と付き合ってきた。愛玩用のポニー、走るために生まれたサラブレッド、使役に従事した名もない馬たち、人と馬は互いに助け合い友情を育んできた。

 先日すごい馬に会った。大きな馬だった。場所は北海道帯広市のばんえい競馬場。ばんえい競馬とは、体重1トンの世界最大級の馬が鉄のソリを引き途中の障害を乗り越えてゴールを目指す北海道伝統の馬レースである。

 馬は明治時代に開拓用農耕馬としてヨーロッパから輸入された大型馬の末裔(まつえい)であり、ばんえい競馬のルーツはかつて農閑期の祭りで開催された草競馬である。

 横一線に並んだ巨大な馬が鉄ソリを引き砂山を登る。馬の筋肉がきしむ、荒い息遣いが聞こえる。レースは直線200メートル。だがどんなに強い馬も200メートルを一気に走ることはできない。全ての馬が途中何度か立ち止まって力をため、そしてまた走る。これがこの競馬の最大の特長である。

 先頭を走る馬が止まる、後からきた馬が追い抜く、そしてまたその馬が抜かれる。レース展開を見ながら、どこで、いつ、何秒休むかの騎手の判断が勝敗の分かれ目になる。熱心なファンは200メートルを馬たちと一緒に走る。ひいきの馬が止まり、なかなか動き出さなければ観客の興奮は最高潮に達する。

 時々力尽きてゴールできない馬がいる。座り込む馬もいる。だが、途中棄権した馬がソリを外されて退場するときにはスタンドから大きな拍手が送られる。罵声を浴びせられることはない。

 先日はおめでたもあった。出走予定馬が厩舎(きゅうしゃ)で出産したのだ。もともと大型馬でおなかも出ていたので調教師は妊娠に気がつかず朝馬房で見知らぬ子馬を見て驚いたという。競走馬が出走直前に出産したのは世界の競馬史上でも極めてまれな事件であったろう。

 ばんえい競馬は北海道開拓史を今日に伝える貴重な文化遺産であり、地域振興を担う重要な財産でもある。北海道遺産にも認定された。だが、他の公営競馬場と同じように慢性的な経営不振に悩まされている。その上、このコロナ禍だ。入場者数も売り上げも激減している。

 しかし、ばんえい競馬にもポテンシャルはある。地域の歴史と伝統、北海道の文化遺産の継承だけを訴求するのではなく、スポーツエンターテインメントプロダクトとしての価値を売り込む。コンテンツは極めて高品質である。

 必要なのはマーケットコミュニケーションによる新規市場の開拓。「世界でここだけ」という黄金のブランドがある。開拓民とともに北海道開拓に従事した馬たちの歴史と文化が育んできたばんえい競馬だ。世界文化遺産に認定される価値は十分にある。

 「世界で唯一」と「世界文化遺産」をベースに、米ラスベガス、中国・マカオとは別のばんえい競馬を中心に据えたIR(カジノを含む統合型リゾート施設)を展開できる。帯広空港をゲートウエーに、アジア、ロシアなど近隣から訪日客を呼び込む。彼らのスペンディング(支出)は国内ファンとは比べものにならぬほど大きい。

 大型ホテルとばんえいドームが建ち、札幌・千歳からの無料急行バスも走る。帯広が娯楽の一大拠点になる。夢物語で終わらせるにはあまりにももったいない。

【プロフィル】平松庚三

 ひらまつ・こうぞう 実業家。アメリカン大学卒。ソニーを経て、アメリカン・エキスプレス副社長、AOLジャパン社長、弥生社長、ライブドア社長などを歴任。2008年から小僧com社長。他にも各種企業の社外取締役など。北海道出身。

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