高論卓説

間違った満場一致の決定回避へ 見直せる雰囲気つくり異論者配置を

 新型コロナウイルスのような未曽有の危機に直面した場合、行政や企業などが間違った決定をしていては、多くの人命を危険にさらすことになりかねない。分からないことが多いなりに、組織が可能な限り的確な決定をするにはどのようにしたら良いだろうか。(舟木彩乃)

 物事を決定するとき、一人よりも集団で協議した方が優れた結果が得られる、と私たちは考えがちである。しかしときには、集団で決めることで、かえって誤った方向にいってしまうことがある。一人で冷静に考えると正しい判断ができるのに、集団の意思決定がそれよりも劣った誤った判断になってしまう現象は、「集団的浅慮」と言われる。アメリカの心理学者ジャニスらが、組織の意思決定について分析し、提唱したものだ。

 集団的浅慮を引き起こしやすいのは、凝集性が高く閉鎖的な集団である。そのような組織は、異論を唱えることへの圧力があって反対意見が出にくく、外部からの意見を軽視してしまうといった傾向がある。以前から脆弱(ぜいじゃく)性が指摘されていた顧客情報のセキュリティーについて、その課題を軽視し続けた結果、膨大な量の顧客情報流出につながったケースなどがこれに当たるだろう。

 既に下した決定事項が間違っていたと判明した場合、すぐに撤回できれば傷口を広げずに済む。しかし残念なことに、一度決定したことがある程度進行してしまうと、覆すことは難しいとされている。これまでの労力を無駄にできない、自分たちの過失を認めたくない、あるいはリーダーの顔に泥を塗るわけにはいかないなどの思いから、一つの決定にこだわり結論を覆すことができなくなる「心理的拘泥現象」が起こるからだ。

 例えば、グループで念入りな準備をして登山や海水浴に出掛けたときなど、現地に着いた途端に天候が怪しくなったとしても、危険を感じつつも計画通りに決行してしまうことがある。このような心理的拘泥現象に陥っている場合、決めたことを無理に決行しても大抵はハッピーエンドとはならない。

 私たちは、さまざまな場面で集団的意思決定の一員となったり、その影響を受けたりすることがある。集団的浅慮が起こるときの特徴を知っておくことは、自分や所属する組織を守る上で有益である。ジャニスは、他の選択肢を十分に検討しない、都合の良い情報ばかり重視して分析する、想定外の非常事態やその対策についての考慮が乏しいといった傾向を改善しない場合に、集団的浅慮に陥りやすいと指摘している。

 では、集団的浅慮を避けるにはどうすればよいだろうか。その対策の一つに、わざと反対意見を述べる「悪魔の擁護者」と呼ばれるメンバーを作っておく方法がある。これにより、他のメンバーが遠慮することなく自由に意見を言えるようになり、集団の意見を再検討する機会が生まれる。これは心理的拘泥現象が起こりそうなときでも有効である。

 今後も新型コロナ対策を組織で行う局面が続くだろうが、より的確な決定をするためには、集団的浅慮や心理的拘泥現象を回避するための工夫が必要となる。そのためには、一度下した意思決定でも躊躇(ちゅうちょ)せずに見直せる組織的な雰囲気や、集団内にイエスマン以外の人間をどれだけ入れられるかなどがポイントになるだろう。

【プロフィル】舟木彩乃

 ふなき・あやの ヒューマン・ケア科学博士。メンタルシンクタンク副社長。筑波大大学院博士課程修了。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)がある。千葉県出身。

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング