第29回地球環境大賞

各界で大規模化する自然災害への対応、鮮明に

 ■阿部博之委員〈日本工学アカデミー会長、東北大学名誉教授〉 大企業は環境対策に多面的に取り組んでおり、それが企業文化にもなっている。一方、資本金が5億円未満の中小企業も環境対策の課題や目標を絞っているところに特徴があり、成果につながっている。企業の大小にかかわらず、温暖化ガスの削減などに対し、より具体的に厳しい数値目標を掲げる傾向がうかがえる。企業以外では、高校の取り組みが印象的であった。各高校の独自性を発揮し、生徒の一体感のある意識に基づいて、目標に取り組んでいる姿が見えてくるようである。

 ■茅陽一委員〈地球環境産業技術研究機構理事長〉 企業の活動ではリサイクルに関連したものが目立った。大企業の場合は全体の組織を総合システムとして効率化・省資源化しようとする動きが多く、望ましい方向として好感が持てた。大賞となったあいおいニッセイ同和損害保険の試みは、実時間で自然災害予測を行おうという予測システム構築で、自然災害防止の有効な方策開発という実学的な意味で高く評価できる。一方、大学・学校・市民団体の応募は本年度は小粒なものが多く環境賞対象候補としてはやや物足らないものが多かった。

 ■黒田玲子委員〈東京大学名誉教授、中部大学特任教授〉 2019年は自然災害の多発で、多くの犠牲者が出て、今後も増えると考えられる災害対策に関した応募が目立った。例えば、豪雨被害の要因として森林の保全不備が大きく取り上げられたが、国産の木材を活用することで森林保全につなげようとする林業と結びついた取り組みが複数あった。大災害時のライフラインを考慮した住宅建設も目についた。全体的にはSDGsを意識した取り組みが浸透し、多くの企業、高校・大学・市民団体などが自分たちのやれる範囲で創意工夫をしている姿に好感が持てた。

 ■末吉竹二郎委員〈世界自然保護基金ジャパン会長〉 審査を通じて実感したのは、優れた取り組みの中で自社の競争優位を維持するために活動やノウハウを秘匿するのではなく、積極的に公開し社会の共有財産として普及を促すという姿勢がみられ、公益性が高く大変素晴らしいと感じた。今後もその秀逸なCSR活動・環境保護活動を自社の取り組みに留めず、行政府や同業他社、一般市民や学校など多くのステークホルダーを巻き込むことで、それらの活動が相乗効果を生み飛躍的に普及していくことを期待したい。

 ■中村桂子委員〈JT生命誌研究館館長〉 2019年はSDGsの17の目標が企業内での日常の話題になり、大阪G20サミットでのプラスチック全廃宣言、地球温暖化が原因と考えられる自然災害の増大など環境という言葉につながる課題が急速に浮び上がってきた。ここで社会を変えていく必要性を感じ、企業が本来の活動を環境の面から考えることになる転換が明確になった年といえる。あらゆる分野がCO2削減、省エネ、自然志向という形で社会の転換に向けた動きをしている。これが全企業に広がっていくきっかけになることを願う。

 ■池田三知子委員〈日本経済団体連合会環境エネルギー本部長〉 今回の応募案件をみると、プラスチック代替素材の開発・使用や再エネの活用、国産材を活用した住宅・建築物の開発・普及に関するテーマが目立った。いずれも重要な課題だが、再エネに関しては非FIT、卒FITの取り組みを評価したい。経団連では気候変動・資源循環・生物多様性など、幅広い地球環境の課題を統合的に捉えながら、企業経営の重要課題の一つに捉えて事業活動を展開していく「環境統合型経営」を提唱しており、複数の地球環境問題への貢献を意識して取り組む企業の案件が多かったことも心強い。

 ※〈 〉内は2月28日の発表時のものです。

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