高論卓説

「危機」への暗示…雇用と消費に危険な兆候 早急に処方箋を

 足元の日経平均株価は2万3000円台を維持して堅調だが、日本経済の実態と先行きは株価が示すほど楽観できない。雇用と消費に危険な兆候が出ており、このままの傾向が続けば、年末から年明けにかけて失業率の悪化や消費の足踏みなどがより鮮明になりかねない。

 東京商工リサーチの調査によると、今年1~8月に全国で休廃業・解散した企業は3万5816件と前年同期比23.9%増と大幅に増加。このままのペースで行けば、年間で最多だった2018年の4万6724件を大きく超える可能性があると同社ではみている。

 こうした企業で働いていた人たちが新たな職を求めてハローワークに赴いて登録されると、ようやく失業率にカウントされる。日本の場合、公式統計の失業者と実質的な失業者には、かなり乖離(かいり)があると労働問題の専門家は指摘している。

 その「遅行性」のある失業率ですら、8月は3.0%と17年5月以来の水準に悪化した。8月の有効求人倍率も1.04倍と6年7カ月ぶりの低水準に逆戻りした。

 また、7月の実質賃金は前年同月比1.6%減と、5カ月連続のマイナスを記録している。雇用・所得が弱ければ、消費にも波及する。7月家計調査では、全世帯の消費支出は前年比7.6%減に落ち込んでいる。

 政府・日本銀行の財政・金融政策の効果で、資金繰り倒産はかなり抑制されており、東京商工リサーチの調べでは、1~8月の倒産件数は前年同期比0.2%減の5457件となっている。ところが、先に指摘したように廃業はその7倍近くの3万5000件を超えている。

 これが何を意味しているかといえば、運転資金は確保されても、コロナ危機の長期化予想を前に事業の先行き不透明感が拭えず、借金をしても返済が難しいと諦めて廃業しているケースが多いことを示していると考える。

 どこかの時点で廃業を決断する中小・零細企業が急増し、失業者が統計上も大幅に増加してそれが消費を直撃する「縮小のループ」にはまり込むリスクが急増しかねない。複数の労働問題の専門家が、失業率は1年程度経過すると10%近くまで上昇している可能性があると予想している。

 現在、政府が力を入れている「Go To」キャンペーン程度の支援では、焼け石に水ということになるかもしれない。政府は早急に処方箋を国民に示すべきだ。

 1つは消費喚起策。10万円の特別定額給付金の再実施や自動車購入の補助金の導入、政府内で批判の強い消費税率の期間限定引き下げなど思い切った対策の実行が必要だ。国内総生産(GDP)の約6割を占める個人消費の落ち込みを放置して、実効性のある景気対策は望めない。

 2つ目は、大企業も含めた資本拡充策の実施である。コロナ危機が早く収束したとしても、日本や先進国の経済が元に戻るまでに3年はかかるといわれている。

 半年なら持ちこたえても、3年先まで経営を維持するには資本の手当てが避けて通れない。現在ある公的資金を活用したスキームだけでは支えきれない危険性もあり、政府・与党は新たな資本拡充策を早急に検討するべきだろう。

 雇用や所得、消費に関連した危険な兆候は、その先に存在する重大な「危機」への暗示であると、早く政府・与党は気付くべきである。

【プロフィル】田巻一彦

 たまき・かずひこ ロイターシニアエディター。慶大卒。毎日新聞経済部を経て、ロイター副編集長、ニュースエディターなどを歴任。東京都出身。

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