高論卓説

デジタル化推進阻む現場の抵抗 経営トップの丁寧な説明不可欠

 新政権になり、デジタル化を推進する政策が打ち出された。省庁別のシステムを一元化して行政サービスの利便性を高め、縦割り組織を打破する行政改革が狙いだという。先進的な企業や業界では、早くからデジタル化が進められてきた。印鑑、現金、紙を廃止し、手続きを電子化する。銀行や証券の中には、金融機関であっても店舗で現金を取り扱わず、印鑑を不要としているところもある。

 変革を進めることができたのは、経営陣が明確に方針を打ち出し、顧客と従業員がその方針に沿った手続きを受け入れているからだ。顧客は、新しいやり方に最初は不便を感じるかもしれないが、それ以上のメリットがあると思えば許容する。従業員も、仕事の進め方が大きく変更になっても適応する。

 その一方で、商習慣や文化が保守的である業界や企業では、電子化が進まない現実がある。受発注業務に電話やFAXが使われる。契約管理や在庫情報がシステム化されておらず、重要な情報が個人のパソコン上や手書きで管理されていたりする。デジタル化に向けた投資を受け入れがたい財務上の都合もあるだろう。だが、デジタル化を阻むもう一つの壁は、業務を行っている現場担当者の抵抗だ。

 「これまでのやり方を変えたくない」という意識が働く。自分が築き上げてきたノウハウに愛着があり、そこに自分の居場所があると考えて手放さない。日常生活でスマートフォンを使っていても、職場で「タブレット端末を持って仕事をする」デジタル化にはアレルギー反応を示す。結果として業務の属人化が進む。そしてそれは、経営にとってのリスクになる。

 新規事業であれば、最初から効率的な業務設計ができる。だが、一度定着した仕事のやり方を変えるのは簡単ではない。トップダウンで無理やり変革を進めようとすると、現場の猛反対に遭う。新しい仕組みの導入に失敗した反省の多くは、「トップが現場のことを理解できていなかった」「全体最適の姿を説明できなかった」など、対話が少なく、現場が必要性を腹落ちできなかったということだ。

 デジタル化に成功している企業であっても、簡単に進めてこれたわけではない。経営トップが「非効率なやり方を一掃しなければ生き残れない」という強い信念を持ち、現場と何度も対話を重ね、意義を理解してもらう。変革の推進を現場任せにはしなかった。

 ここ数年、ベンチャー企業が立ち上げるデジタルビジネスには目を見張るものがある。業界の慣習や非効率性に着目して新たな事業機会を見いだす。こういった企業は、業界の課題に精通して事業プランを立てる「ビジネス人材」と、要件を即座にデジタルとして実現できる「エンジニア人材」の組み合わせでスタートしていることが多い。若い経営者がデジタルビジネスに直接関与し、現場で指揮を執る。決して人任せにはしない。

 デジタル化を成功させるには、業界や業務の本質的な課題を理解し、実現すべき青写真を描く。その青写真が現状とは違うのであれば、手続きや業務の進め方を変える必要がある。

 そのことで、誰かの既得権益が奪われる可能性がある。そうだとしても、青写真の実現が必要である理由を丁寧に説明し、納得して適応してもらわなければならない。そして、現場の人たちにも改革に参画して一緒になって進めてもらう。日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)もそのように進んでいくことを願う。

【プロフィル】小塚裕史

 こづか・ひろし ビジネス・コンサルタント。京大大学院工学科修了。野村総合研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ベイカレント・コンサルティングなどを経て、2019年にデジタル・コネクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『デジタル・トランスフォーメーションの実際』(日経BP社)。兵庫県出身。

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