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携帯値下げ、元は「楽天対抗プラン」 本格競争は楽天通信網整う来夏か

【経済インサイド】

 菅義偉(すが・よしひで)政権が最優先課題とした携帯電話料金の値下げ-。KDDI(au)とソフトバンクが早々に格安ブランドで新プランを導入して対応すると表明し、政府もとりあえずは矛を収めた。だが、両社が打ち出したのは、今春の導入を検討したが、出す必要がなくなった「楽天対抗プラン」にすぎない。一気に盛り上がりをみせた割には、主力ブランドの値下げにまでは踏み込まず、本格的な料金競争は先送りになった。

単に料金プラン増えただけ

 「国民の財産である公共の電波が提供されているにもかかわらず、世界的に高い料金で約20%もの営業利益率を上げている」

 菅首相は9月初旬の自民党総裁選出馬会見の時から携帯値下げを「一丁目一番地」の政策に掲げてきた。その後就任した武田良太総務相や古谷(ふるや)一之公正取引委員会委員長も値下げに強い意欲を示す発言をし、政府が包囲網を狭めていく姿を演出した。

 一連のやり方をめぐっては、「一国の総理が特定の産業に口出しするのはありえない」という声や「利益率20%は高いという発言は民間企業の経営努力を否定している」と問題視する見方も多い。だが、背景には一昨年夏に「日本の携帯料金は4割程度下げる余地がある」と発言し、競争促進策を次々と打ち出したのに携帯大手が値下げに消極的で、料金が高止まりしていることへの首相の忸怩(じくじ)たる思いがある。

 こうした中、KDDIとソフトバンクが10月28日に発表した新プランは、ともにデータ通信容量が20ギガバイトでKDDIは格安ブランド「UQモバイル」で月額3980円(税別)、ソフトバンクも格安ブランド「ワイモバイル」で同4480という料金水準になった。

 政権は総務省による世界6都市の携帯料金の比較調査で、東京の料金が20ギガの大容量プランで月額8175円と最も高額であることを国際的に日本の料金が高い論拠としてきた。新プランは20ギガというピンポイントの領域で、菅首相が主張する「4割」の値下げを満たす形にもなっている。

 もっとも、新プランに対しては「単に料金プランが増えただけ」「今の料金から4割引けないのか」と消費者からは早くも辛辣(しんらつ)な声が浴びせられている。

 確かに突っ込みどころは満載だ。料金プランの新設は、厳密には政権が求めていた値下げではない。しかも、傘下の格安ブランドでの対応であり、大多数の人が加入するauやソフトバンクといった主要ブランドの高価格帯プランは温存される。携帯大手にとっては売り上げの落ち込みを抑えられる利点がありそうだが、消費者目線では多くの人の支払額が下がることにはならない公算が大きい。

 「魅力的な料金サービスの選択肢が提供されることは利用者にとっては望ましい」。加藤勝信官房長官は10月28日の記者会見で新プランを歓迎した。携帯大手は政権の要求に対応するための受け皿を用意しただけで、政権が狙う家計の負担減にはすぐには直結しない可能性もある。それにもかかわらず、手のひらを返したのはなぜか-。

「レクサス」でなく「カムリ」

 政権には最初から落としどころが分かっていた節がある。総務省幹部は一連の値下げ騒動の最中「高級車『レクサス』を大衆車『カローラ』の値段にしろとは言っていない。手頃な上級車『カムリ』が必要だ」とトヨタ自動車の車種に例えて語っていた。こうした意向は当初から携帯大手にも伝わっていたとみられる。

 「新プランは元々は楽天対抗プランだ」とも総務省幹部は明かす。4月に楽天が携帯電話事業に本格参入する際、携帯大手は一気に顧客を奪われるのに歯止めをかけるための対抗プランを用意していた。だが、蓋を開けてみると、楽天のプランは月2980円という月額料金は安いが、データ使い放題のエリアが極めて限られるなど制約が多かった。結果、楽天は出だしから顧客獲得でつまずき、携帯大手は対抗プランを温存することになった。

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