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新規就農者の“強い味方”に ウェブでプロが農業のノウハウを伝授

SankeiBiz編集部
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 新型コロナウイルス感染拡大で東京一極集中を回避する流れが広がる中、地方で新たに農業を始める新規就農者をチャットなどで支援するマッチングサービスを、長野県のいちご農園が始めた。プロの農家が新規就農者に栽培方法や経営ノウハウなどを伝授する仕組みで、今月7日に開催されたビジネスコンテストではグランプリに選ばれた。農業の知識不足などを理由に短期間で農業を辞めてしまう新規就農者も少なくないため、「離農」を防ぐ新たな試みとして期待が高まっている。

新規就農者の定着率向上に寄与

 農業従事者数は減少の一途をたどっている。農林水産省によると、2010年の農業就業人口は260.6万人だったが、19年には168.1万人にまで減少し、9年間で100万人近くが離農した。新規就農者は毎年約5万人以上いるが、総務省の報告書によると、農業法人などで雇用される新規雇用就農者のうち約4割が就農から4年目までに離農。新たに就農しても、定着率が低いのが実態だ。

 こうした現状を解決しようと立ち上がったのが、長野県佐久市でいちご狩りハウスを運営する井上寅雄農園。システム開発会社の「パスカル」(同市)が農業のスキルをシェアできるサービス「アグティー」を開発した。農業について悩みを抱えた新規就農者らがアグティーのビデオチャットなどを通じて、プロの農家や営農指導を行っていた元JA職員から指導を受けられる仕組みで、業界初の試みという。

 ユーザー登録した相談者は「はくさい」「ブロッコリー」「いちご」といったジャンルごとにアドバイザーを検索して相談を依頼するが、特定のジャンルに限らず、さまざまな分野のアドバイザーから相談を受けられる。アドバイザーとして登録したユーザーは、自分の得意分野に沿った悩みを持つユーザーの相談に乗ることで対価を受け取る仕組みだ。悩みを抱えた人と、悩みを解決するノウハウを持ったプロとのマッチングを促すこのサービスは、今月開催された「信州ベンチャーコンテスト」でグランプリを受賞した。

 総務省の調査では、土地や資金を調達し、新たに農業を始めた新規参入者の7割以上が「生計が成り立っていない」と回答。経営上の課題や害虫駆除などの技術上の課題を理由に挙げる人も多く、経営難に陥る背景に「技術不足」も指摘されている。

 日本では農業に従事する人の約7割が65歳以上。次代を担う新規就農者の定着率向上に向けた対策は喫緊の課題だ。“ウィズ・コロナ”の時代に地方分散が進めば、農業という仕事が選択肢に加わる人が増える可能性もある。若い世代が農業を始める場合、気軽にプロに相談できるマッチングサービス。井上寅雄農園は「アグティーで、相談者だった農家が成長し、将来プロ農家になって指導する」という農業界の新たな未来図を描いている。

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部 SankeiBiz編集部員
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