経済インサイド

農産物輸出拡大へ日本酒、ブリなど重点品目 掛け声倒れ回避へ「あとはやるだけ」

 令和7年の牛肉の輸出額目標1600億円を国・地域別にみると、中国向けは400億円と最大の輸出先になると想定している。

 輸出再開に向けた協議は新型コロナウイルス禍の影響で大きく遅れている。農水省の担当部局は「現在は中国がわが国の食品安全システムを評価中だ。あらゆる機会をとらえて(協議を)加速させる」と話す。

 一方、コメやパックご飯などは元年実績の52億円から、7年に125億円と約2・4倍に伸ばす。日本のコメは冷めてもおいしく、すしやおにぎりに向き、外食や中食での需要開拓が期待できる。香港や米国、中国などで攻勢をかける。

 海外で「SAKE」として認知を広げる日本酒は、米国や中国、香港、欧州などで輸出額を伸ばし、7年には600億円と元年実績の約2・6倍を目指す。

 コロナの逆風は減衰も…

 農水省によると、今年1~10月の農産物・食品の輸出額は前年同期比1・0%減の7325億円。10月単月では前年同月比21・7%の大幅な伸びで、年前半からの新型コロナによる逆風は減衰してきた形だ。工業品など他の分野と比べれば健闘しているといえる。

 とはいえ、新型コロナはなお収束しておらず、楽観は禁物だ。感染再拡大のリスクが顕在化すれば、輸出先の国・地域の景気回復が遅れ、輸出額は下押しされる。海外でも顕著な「巣ごもり需要」を背景とした外食向けから家庭向けへの需要のシフトに的確に対応できるかが問われそうだ。

 輸出のための商談も、対面はいまだ難しい。ただ、新規の顧客開拓には現在主流のオンライン方式では限界があるとの声も多い。

 政府として決めた実行戦略を“掛け声倒れ”に終わらせないために、必要なことは何か。ある自民党農林族議員はこう話す。「あとはやるだけ、動くだけだ」

 菅首相が農産物・食品の輸出拡大の旗を振るのは、農林水産業を基幹産業とする地方の所得を増大させることが、成長戦略や地方創生につながるとみているためだ。そこには、人口減少の加速で国内市場が縮小していく中では、海外市場に活路を見いださなければ日本の生産基盤を守れないという厳しい現実もある。

 農林中金総合研究所の清水徹朗理事研究員は「日本の農産物・食品を海外市場に積極的に売り込むのはいいことだが、12年までに5兆円という目標は根拠が不明な上、現実的とも思えない」と指摘。その上で「輸出拡大が日本の農林水産業や食品産業にどのような効果を与えるのか、精緻な分析が必要だ」としている。(森田晶宏)

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