マネジメント新時代

EV競争に日本の勝機はあるか 欧米中の勢いそぐ「迂直の計」

 日本電動化研究所 代表取締役・和田憲一郎

 昨年末、政府は「温暖化ガス排出量を2050年に実質ゼロを目標にする」と発表した。それ以来、自動車にまつわる話題が一気に活発化した。軽自動車についても、その対象に含めると追加公表があった。このように環境が激変する中、日本はどう進めるべきであろうか。

 欧米中の勢いそぐ「迂直の計」

 昨年末に発表された「グリーン成長戦略」では、自動車に関して、「30年代半ばまでに新車販売で電動車100%」とされている。ここでいう電動車とは、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車(EV)、燃料電池車である。

 海外では、米カリフォルニア州のニューサム知事が20年9月に、「35年に販売する車はゼロエミッション車にする」と公言し、ハイブリッド車は外すことを明らかにしている。また英国では、純ガソリン車廃止は従来の35年から30年に前倒したが、ハイブリッド車は35年のままとしている。

 世界最大の自動車市場である中国も、政府系の中国自動車エンジニア学会が、35年には新エネルギー車を50%以上とするとともに、それ以外は純ガソリン車を廃止し、ハイブリッド車など環境対応車にするというロードマップを公表している。

 結局、主戦場はEV市場とみるのが妥当であろう。しかし、EV市場をめぐる競争で日本の自動車産業は海外勢に対し2~3周の周回遅れとなっているのが実情だ。例えば、中国汽車工業協会は、新エネルギー車の販売台数が、19年120万台に対し、20年は最終130万台に到達、21年はさらに伸びて180万台になると予想している。

 欧州でも、販売台数がコロナ禍で急減する中、20年の電動車は約30%弱まで急伸し、ディーゼル車をしのぐまでになってきた。米EV大手テスラを筆頭にゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーターまでも主軸のピックアップトラックまでEV化するなど、急激にEV化に傾いている。

 その中で今、日本がEV開発競争に名乗りを上げることが得策であろうか。真っ正直にEV開発競争を宣言し、突入するのではなく、方法論を少し考えることを提案したい。

 では、日本に勝機はあるのであろうか。既に出遅れている中で、まともにEVの競争に名乗りを上げるのではなく、まず欧米中の勢いをそぐことが大切であると考える。孫子は、勝利の条件を作り出すことの難しさは、わざと遠回りして、相手を油断させ、そして誰よりも早く目的地に到達することであると説いている。これが孫子の説く「迂直(うちょく)の計」である。

 欺いてでも勝利の条件を作る

 そのため、環境問題に政府・企業が取り組むことは重要であるが、こと自動車に関しては「石油はまだ枯渇していない」「ガソリン車の次はハイブリッド車ではないのか」「ライフサイクルアセスメント(LCA)規制も考えるべきだ」などとメーカー各社が声高に叫び、EV化に対し時期尚早の姿勢を明らかにしていく手が考えられる。

 欧米中からは「日本はまだ切羽詰まっていないのか」「EVではなく、ハイブリッドなのか」と懸念を示されるかもしれないが、欧米中でガソリン車販売をしている人々の中には、日本がそう言っているのだから、そう急激にEV化を進める必要はないという意見も出てくるであろう。まさにEV化のスローダウンである。

 もし、このように欧米中の勢いがスローダウンし、迷い始めたら成功である。日本は世論に訴える姿とは真逆に、社内および自動車部品メーカーと協力して、主戦場である新エネルギー車(EV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)の開発に邁進(まいしん)する必要がある。

 このように、海外自動車メーカーを欺いてでも、勝利の条件を作り出すことが今、最も求められることではないだろうか。先月、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が、記者会見でEV化に慎重な発言を行った。もし「迂直の計」を取ったのであれば千両役者というべきであろう。

【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。福井県出身。

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