高論卓説

「再発令」の拡大・長期化懸念 高まる二番底危機、生活支援策急務

 政府が緊急事態宣言の再発令対象を11都府県に拡大し、今年1~3月期の国内総生産(GDP)がマイナス成長になる可能性が高まった。飲食店だけでなく幅広い業種で強い下押し圧力がかかり、宣言の発令が長期化すれば、個人の所得環境にも大きな影響が出かねない。(田巻一彦)

 しかし、政府が編成した2021年度予算案は、“ポストコロナ”が前提となっており、足元の感染拡大を想定していなかった。予備費は5兆円しかなく、新たな打撃に「窮屈」な対応を余儀なくされる。10万円の特別定額給付金の再交付は、予算の組み替えなしにはできない。

 今回の緊急事態宣言でどの程度の打撃が発生するのかはっきりしないが、国内エコノミストの予想は1兆円台から4兆円台とかなりの幅がある。

 昨年7~9月期のGDPは年率換算で前期比プラス22.9%だったが、10~12月期はプラス3~4%に減速する可能性が高い。ここに今回の緊急事態宣言によるマイナス効果が加わると、21年1~3月期はマイナス2~3%とマイナス成長に陥る可能性がある。いわゆる「二番底危機」だ。

 ところが、20年度第3次補正予算案と21年度予算案は、新型コロナウイルスの感染者が急増しない前提で、ポストコロナの下でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めたり、脱炭素社会への転換を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)とも言える構造転換に力点を置いたりする政策が並んだ。

 他方、失業者が急増したり、オーバーシュート(爆発的患者急増)のような事態が発生したりした場合の対応は、なおざりにされていたと言ってもいいだろう。実際、個人消費の勢いが1月以降、急速に衰えてきたことが確認されたとして、全国民1人に10万円の特別定額給付金を再交付しようとすると、諸経費込みで13兆円超の費用がかかる。

 だが、予備費は5兆円しか計上されておらず、今の予算案の構成のままでは再交付はできない。

 米国では9000億ドル(約92兆7000億円)の追加コロナ対策法案が成立し、財政面からコロナの感染拡大に対応しようとしているのに、日本ではポストコロナ前提の予算費目が目立ち、コロナ拡大時に国民生活を直接サポートするような費目への予算計上が小さい。

 18日から始まる通常国会では、まず3次補正から審議が始まる。政府はメンツをかなぐり捨てて大規模な追加の消費喚起策が実現できるような予算案に組み替えをすべきではないか。

 昨年も10万円の特別定額給付金の交付のため、20年度補正予算案の組み替えを決めた経緯がある。

 かつては予算案の組み替えが「内閣総辞職に直結する」として拒否する「慣行」があったが、昨年の前例が既に存在する。

 菅義偉首相は、1カ月で緊急事態宣言を終わらせる決意を13日の会見で示したが、コロナ感染者の拡大傾向が続けば、全国に発令地域を広げる決断をせざるを得なくなる事態に直面しかねない。菅首相は果断な決断を下し、国民生活の底割れを防ぐ「セーフティーネット」の構築を目指した政策を打ち出してほしい。

【プロフィル】田巻一彦(たまき・かずひこ) ロイターシニアエディター。慶大卒。毎日新聞経済部を経て、ロイター副編集長、ニュースエディターなどを歴任。東京都出身。

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